スマホだけじゃない、病院を悩ませる「電波」 処方箋を提示したのは意外な会社だった

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病院を悩ませる「電波」に処方箋を出そうと挑む企業がある。それは携帯電話会社でも、医療機器メーカーでもない。ゼネコンだ。大成建設は6月、病院内での電波環境を「見える化」する技術を開発した。

同社のシステムでは、建物の設計図や配線図現地調査に基づき電波の動きをシミュレーションし、繋がりやすさを青、黄、赤の順で表示する。実際に埼玉医科大学国際医療センターの病棟で行った実験では、一部の病室が黄色に、扉で仕切られた空間であるトイレの中が赤く表示された。

発信器を持って全病室を回るという骨の折れる点検作業をせずとも問題の場所が一目でわかるようになる。

見える化システムのシミュレーション画面。 一部の病室で 電波が繋がりにくい結果が出た(左)ため、受信アンテナや扉の位置を変えることで解決した(右)(画像:大成建設)

なぜゼネコンなのか。システムを開発した、大成建設の先進技術開発部 IoT推進室の遠藤哲夫氏によれば、「電波の繋がりやすさは、建物の構造に起因する場合も多い」からだ。冒頭の医療用テレメーターの不具合は、スタッフが防火用の鉄扉を越えた瞬間に起きた。金属製部材は電波を通しにくいのだ。

点検によって不具合が起きても、他の通信機器が干渉しているのか、建物の構造や部材が電波を阻んでいるのかは、病院スタッフでは判断がつきにくい。そこにゼネコンが参入する余地があった。

また、「建物の設計段階から電波環境の整備を提案していく」(遠藤氏)という意義もある。設計段階では電気や空調設備の配線は考慮されても、アンテナ線などの電波環境については後回しになりがちで、既に敷かれたダクトや他の配線の隙間に潜り込ませる必要がある。

そのため電波が通じる場所よりも、とりあえず空いている空間に敷く羽目になっていた。結局、建物の竣工後に不具合が表面化する。

電波環境の整備が大きな課題に

建物や設備の配置の設計する際に、電波の繋がりやすさもあらかじめ計画しておけば、こうした問題はなくなる。将来的には「病院内の電波状況を常時モニタリングし、(黄や赤の表示が出て)電波の不具合がすぐに見つかるようにしたい」(遠藤氏)という。

IoTという言葉の普及に象徴されるように、もはや通信機器は携帯電話を超えて、あらゆる機器に搭載しうる時代になった。国際医療センターには医療用テレメーターだけで約350台、医療機器すべてを含めると約4000台もあるといい、電波を発する機器は今度加速度的に増える可能性もある。

病院は「事故が起こってからでは手遅れ」(加納氏)な空間だ。機器ばかりが進化しても、それを受け入れる施設自体が不具合を起こさない構造でなければ平仄(ひょうそく)は合わない。医療が高度化する中で、電波環境という新たなインフラ整備の必要性を、病院は突きつけられている。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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