スマホだけじゃない、病院を悩ませる「電波」 処方箋を提示したのは意外な会社だった
問題は、医療機器への影響よりも、むしろ病院側の電波環境が追いついていないことだ。
病院内での医療機器の安全管理に詳しい埼玉医科大学保健医療学部の加納隆・客員教授は、「電波管理をしたくても、スタッフもノウハウも足りない」と、医療現場の現状を指摘する。
ひとくちに「電波」と言っても、病院では携帯電話の電波は施設課、医療機器の発する電波は臨床工学部門と分かれており、さらに患者自身が使う携帯電話や無線LANなど相互にどんな影響を与えているかを一元的に管理することが難しい。
こうした縦横無尽に飛び回る電波を放置すれば、電波が医療機器に干渉して誤作動を招いたり、電波が繋がらず医療機器が作動しなくなるおそれがある。現場では医療用テレメーターの不調により、場所を変えて何度も接続を試す事態がすでに起きているという。
スタッフ3人で1週間つきっきり
総務省は、病院内に電波が届かない場所がないか年1回点検することを推奨している。だが「発信器を持ったスタッフが病室をくまなく回り、電波がきちんと受信できるかをしらみ潰しに確認する」(臨床工学技士の資格を持つ埼玉医大の川邉学講師)という、想像以上に原始的かつ疲弊する作業が待っている。
国際医療センターの場合、100以上の病室に加えて、トイレや廊下なども測定する必要がある。「昨年に行った調査では、スタッフ3人が1週間つきっきりで測定して回った」(国際医療センターの松田氏)。毎年点検業務を行えるほどの時間や人員もなければ、医療機器の保守点検を行う臨床工学技士も足りていないのだ。
繋がりにくい場所が見つかっても、対応は一筋縄ではいかない。たまたま他の通信機器と干渉していたならまだしも、送信機から発せられた電波を増幅して部屋の隅々まで行き渡らせる天井裏のアンテナ線が問題なら事態は深刻だ。
部屋の隅などアンテナ線からの距離が遠い場所や、アンテナ線自体の老朽化が原因の場合は工事が必要になるが、設備の隙間を縫うように張り巡らされたアンテナ線を引き直すことは専門の業者でも手を焼くという。
追い打ちをかけるのが、2020年にPHSのサービス終了が決まったことだ。電波が微弱で医療機器に影響を与えづらいPHSは病院で広く使われてきた。今後は病院スタッフによるスマートフォンの操作も想定される中、電波環境の整備が喫緊の課題として浮上した。
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