18歳「ロヒンギャ花嫁」と難民キャンプの今

バングラ大量流入1年、帰還の見通しなく

翌日再訪してみると、前日会えなかった新郎はなかなかの男前である。「子どもをたくさんもうけて大家族にしたい」と話す新郎の傍らで、両手で顔を覆い、身をよじって恥ずかしがる新婦に「よかったね。結婚おめでとう」と声を掛けると、顔を伏せたまま小さくうなずいた。

「今のままでは帰れない」

ロヒンギャ難民問題が今日、世界最大の人道危機であることは論を待たない。難民たちが置かれた環境は依然として過酷だが、数十万人が津波のように押し寄せた昨年8月末以降の修羅場と比べると、難民キャンプの暮らしは厳しいながらも日常生活になりつつある。粗末なテントでのささやかな婚礼は、その一例と言えるだろう。

改良型テントの建設が進むクトゥパロン難民キャンプ(筆者撮影)

特に拡張工事が続くクトゥパロン難民キャンプは、国連機関や人道援助団体が建設する仮設学校、診療所、舗装道路など、バングラデシュ政府が当初認めていなかったセミ・パーマネント(半恒久的)構造物が目立って増え、野菜や魚の干物、駄菓子、衣料品、日用雑貨などの売店、喫茶・食堂、散髪屋が通りに並ぶ。見渡す限り広がる数千のテント群は、生きるエネルギーが充満した風変わりな巨大都市の様相を呈している。

難民キャンプのマドラサ(イスラム学校)の男の子たち(筆者撮影)

ロヒンギャ難民は「虐げられた無力な人々」という絵面で伝えられているが、身近に接すると、信仰心厚く勤勉で忍耐力があり、少し前の世代の日本人に通じる美徳を備えている(もちろん悪い連中もいるが)。まともな教育を受けていないが聡明である。

ラマダン明けの6月中旬、難民キャンプに仮設された手動式の観覧車で遊ぶ子どもたち(筆者撮影)

ラマダン(イスラム断食月)明けの祝祭で子どもにきれいな服を着せたり、突然の来客(筆者)を茶菓でもてなそうとしたり、ひょうきんな掛け声に合わせて仲間と力仕事に励んだりする姿を見ると、私たちと同じく、ごく普通の楽しみや喜びを求めて日々を生きていることがわかる。

しかし、それは彼らの生活が落ち着いたことを意味しない。ミャンマー、バングラデシュ両政府は1月下旬に難民帰還を開始すると発表していたが、帰還プロセスは現地ではまったく動いておらず、難民たちは異口同音に「ミャンマーに帰りたいが今のままでは帰れない」と訴える。

彼らが挙げる帰還の条件は、①ミャンマー政府がロヒンギャという民族の存在を認め、ほかの国民と同等な立場で国籍を付与すること、②奪われた土地・財産を返還すること、③帰還に際して安全を保障し、国連や援助機関がラカイン州に常駐すること――の順番であることが多い。

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