18歳「ロヒンギャ花嫁」と難民キャンプの今 バングラ大量流入1年、帰還の見通しなく

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話が前後するが、さかのぼって1月の会談で河野外相がスーチー氏に求めたポイントを読み直してみると、①国連を含む人道支援アクセスの拡大、②安全で自発的な難民帰還と再定住、③「アナン勧告」と呼ばれる特別諮問委員会報告(国籍法の見直し、人権状況の改善など)の実施を通じた根本的な対応――とある。穏当な外交的言辞で言い換えているが、驚くことにロヒンギャ難民の主張とほぼ同じである。ミャンマーに対して最初から言うべきことを結構言っていたのだ。

ミャンマーに寄り添いつつ落としどころを探す日本の関与は、ちょっとした賭けである。加減を間違うと、ミャンマーは中国の庇護下に逃げ込もうとするだろうし、「最初の1カ月で少なくとも6700人が殺害された」(NGO国境なき医師団)とされるミャンマー政府軍の“人道に対する罪”の責任追及が尻すぼみに終わるようだと決定的な失望を招く。

日本外交の「控えめな目玉商品」

ラカイン州の複雑な歴史的背景はあるにせよ、ミャンマー側の犯罪行為は議論の余地なく明らかで、筆者も生々しい被害証言を多数得ている(『「家族11人殺された」ロヒンギャ少年の悲劇』参照)。政府軍兵士によるロヒンギャ女性への性暴力被害に関する詳細な調査報告もある。

ロシアによるクリミア併合、中国の南シナ海進出など、武力によって現状変更と既成事実化を強行する策動が近年相次いでいるが、自国の少数派を圧倒的暴力で根こそぎ追い出すような暴挙を不問に付していいはずはない。真相究明なしに帰還を促しても誰一人帰らないだろう。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは6月26日、ミャンマー政府軍総司令官ら13人を告発し、国連安保理による国際刑事裁判所への付託や金融制裁を求めた。何かにつけて中国が邪魔するだろうが、ロヒンギャ問題取材中に不当逮捕されたロイター通信の現地記者2人に対する裁判の行方と併せて、いずれも目が離せない。

一般にはあまり脚光を浴びないが、アジアの紛争解決・平和構築は日本外交の“控えめな目玉商品”というべき分野で、たとえば今回同様にイスラムが絡んだフィリピン・ミンダナオ紛争の終結にも深く関与している(『日本が貢献した「イスラム紛争終結」の舞台裏』参照)。

歴史認識をめぐる中国・韓国との確執や、北朝鮮問題にばかり目が向くのは致し方がないとして、日本が人知れずアジアの平和に貢献し、意外なところで信頼を得ていることを少しばかり誇ってもいいと思う。

ロヒンギャ難民の大量流入から1年、問題の長期化は必至である。平和外交と人道支援の両面で日本が存在感を示す余地は大きい。

中坪 央暁 ジャーナリスト

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なかつぼ ひろあき / Hiroaki Nakatsubo

毎日新聞ジャカルタ特派員、編集デスクを経て、国際協力分野の専門ジャーナリストとして南スーダン、ウガンダ北部、フィリピン・ミンダナオ島、ミャンマーのロヒンギャ問題など紛争・難民・平和構築の現地取材を続ける。このほか東ティモール独立、インドネシア・アチェ紛争、アフガニスタン紛争などをカバーし、オーストラリアの先住民アボリジニの村で暮らした経験もある。新聞や月刊総合誌、経済専門誌など執筆多数。

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