行動経済学が解明を目指す「幸福」の正体 重要なのは使命感や利他性を養う教育だ

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次に利他性について考えてみよう。シカゴ大学の経済学者のケーシー・マリガンは、1997年の著書で親が子供と長く時間を過ごすほど家族内の利他性が増すことの証拠を挙げている。

上述のように東日本大震災を契機に利他性が増した証拠がある。このように利他性も大人になってからでも獲得していくことができるが、使命感と同様、子供のときから利他性が増すような適切な教育を受けることができれば、さらに望ましいであろう。

反競争的な教育は利他性に逆効果?

伊藤高弘(神戸大学)・窪田康平(現・中央大学)・大竹文雄(大阪大学)の「隠れたカリキュラムと社会的選好」の研究では、小学生のときに参加・協力学習を経験したものは利他性が高くなり、反対に運動会の徒競走で手をつないでゴールするような反競争的な教育を受けたものは利他性が低くなる傾向があることを示唆する実証結果を得ている。

参加・協力学習についての結果は実際にグループで協力してエウダイモニアを経験することが重要であることを示していると思われる。反競争的な教育は、おそらく利他性を増すことを期待して行われるものであろうが、皮肉なことに逆の結果となっている。これは、受験競争という競争がある日本で、運動会の競争をやめると勉学だけの均質的な価値観が生じやすいからではないだろうか。

いろいろな分野で共同体に貢献する人たちが利他性を持つためには多元的な価値観が必要で、そのためには多くの分野での誠実な競争はむしろ望ましいのであろう。

前回記事「超高齢化社会では『共同体メカニズム』が重要だ」で書いたように、筆者は今後の日本で共同体メカニズムの活用が重要になると考える。共同体メカニズムの活用のための原動力がエウダイモニアで、そのために特に重要なのが、使命感や利他性についての教育だと考える。

このような教育が国や地方自治体の政策として発展すれば望ましい結果が得られるであろう。また、われわれ一人ひとりが、使命感と利他性を獲得していくように生きて、お互いに励ましあい、充実した善い生き方を子供たちにも身近な例として見せることができれば、日本の未来は明るいと信じる。

大垣 昌夫 慶應義塾大学経済学部教授

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おおがき まさお / Masao Ogaki

1958年生まれ。大阪大学卒業。アメリカ・シカゴ大学経済学部博士課程修了(Ph.D.)。アメリカ・ロチェスター大学助教授、アメリカ・オハイオ州立大学教授等を経て、2009年から現職。2015年から2017年まで行動経済学会会長。著書に『行動経済学ー伝統的経済学との統合による新しい経済学を目指して』2014年(有斐閣、共著)など。学術論文をThe American Economic Review, Econometrica, International Economic Review, The Japanese Economic Review, Journal of Political Economy, The Review of Economic Studiesなどに多数発表。

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