行動経済学が解明を目指す「幸福」の正体

重要なのは使命感や利他性を養う教育だ

この実験はノートンのTEDのスピーチ「幸せを買う方法」でも説明されている。この実験では、5ドルか20ドルを参加者に朝に与えて午後5時までに、使うように指示した。それぞれのグループは無作為にさらに2グループに分けられ、一つのグループは自分のために、もう一つのグループはほかの人のために使うように指示された。ほかの人のために使うほうが、幸福度が有意に上昇した。5ドルか20ドルかという金額は、幸福度の上昇に有意な影響を与えなかった。

この研究では、さらに同じ大学の別の109人の学生たちを対象に、先の実験の4つの条件で、どの条件なら自分が最も幸福になるか予測させた。学生たちの予測は2重に誤っていた。統計的に有意なより多数の参加者たちが、自分のためにお金を使うほうが、ほかの人たちのために使うよりも自分は幸福になると予想し、また、20ドルを使うほうが、5ドルを使うよりも幸福になると予想した。

学生たちは自分たちの幸福度の決定要因について、正しく予測していなかった。この研究は共同体に貢献する充実感としてのエウダイモニアを経験して気づくことが大切であることを示していると考えられる。

東日本大震災で起きた幸福度の変化

寄付をすると幸福度が上がるということは、日本でも観察されている。筆者は石野卓也(現・金沢星稜大学)、亀坂安紀子(青山学院大学)、村井俊哉(京都大学)と、東日本大震災前後の幸福度と利他性の変化について研究した。その内容は、瀬古美紀(現・武蔵野大学)編の『日本の家計行動のダイナミズムVIII』 の第9章に収録した。

意外なことに、震災後に幸福度が変化した人々の中では、多くの日本人の幸福度が上昇した。震災後に多くの人々の利他性が上昇して寄付をした。寄付をすることにより幸福度が上がる、というダンらの実験と同様なことが起こったと考えられる。

自分のためにお金を使っても幸福になるわけではないということは、幸福の経済学で有名なイースタリン・パラドックスにも関係していると思われる。イースタリン・パラドックスとは、幸福の経済学の先駆者のリチャード・イースタリンが1974年に発表した論文で発見したものだ。一時点のデータを見ると、所得の高い人たちのほうが、幸福度が高い傾向があるのに、一国が経済成長して所得が上がっていっても、幸福度はほとんど変化しない、というパラドックスである。

大竹文雄・白石小百合・筒井義郎の『日本の幸福度―格差・労働・家族』(2010年、日本評論社)によると、1958年から1998年の40年間で日本の実質GDP(国内総生産)≒所得 は6倍ほど増加したのに、生活満足度の上昇が見られなかった。

イースタリン・パラドックスの有力な説明は、生活満足度は消費の絶対額ではなく、自分の消費額と参照点(たとえば、自分の周りの人たちの平均消費額)との差で決まる、というものである。短期的には消費が上がると生活満足度が上がるが、長期的には一国の所得や消費が上がっても、参照点が上がっていくだけで生活満足度は上昇しない、と考えられる。

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