人間はサメとどのように共存していくべきか 多くのサメが絶滅の危機に直面している

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沼口:確かに、昔大量に獲っていた時期がありました。サメはすごく寿命が長いんです。例えば深海ザメには400歳という長寿を誇る種類がいます。ジンベエザメもあの大きさなので100年は生きるような気がします。何十年か前の乱獲が影響して、いまになって「減ったな」とようやくわかってきています。

木本:ここ最近気をつけたくらいで、解決できるものではないんですね。

沼口麻子(ぬまぐち あさこ)/1980年、東京都生まれ。東海大学海洋学部卒業後、同大学院海洋学研究科水産学専攻修士課程修了。IT企業のプログラマーとして8年間の会社員生活を送ったのち、世界で唯一のサメジャーナリストとして独立。静岡県焼津市をベースに、サメの情報を発信し続けている。専門学校の講師、雑誌連載、ブログなどで「隠れサメ好き」の発掘に余念がない。今年5月『ほぼ命がけサメ図鑑』を上梓(撮影:尾形文繁)

沼口:寿命が長いものは漁獲圧にとても弱いんです。データがないので、当時、乱獲していたかどうかはわかりません。ただ、私がインタビューした漁師の証言などをまとめると、戦争のために深海ザメをたくさん漁獲したり、築地でフカヒレを積極的に輸出していたり……日本だけでなく、世界的にもサメがどれくらいいるかが明らかになる前に、過剰に漁獲してしまった感は否めません。

木本:フカヒレ問題は深刻ですね。ヒレだけ取って捨ててしまう場合もあるとか。

沼口:サメ1尾から、ヒレは最大8枚(胸ビレ2枚、背ビレ、第2背ビレ、腹ビレ2枚、尾ビレ1枚、臀ビレ1枚)を取ることができます。魚体よりもヒレの価値が高いため、一昔前まではヒレだけを持ち帰る船が世界的に多かったといいます。

しかし、現代ではヒレだけとって魚体を海に投棄するフィニングはもう倫理的には許されないでしょう。江戸時代、中国への重要な輸出品だったフカヒレを取って残りの魚肉を練り物にしていた日本人としては、もともとサメのお肉も食べよう、という気持ちがありますから、いまのフカヒレ漁は全部サメの魚体ごと水揚げします。気仙沼ではサメ皮を加工してお財布を作ったり、有効活用も始まっています。

水産庁はどのサメが絶滅しそうなのか科学的に調べて、獲っていいものと、そうではないものを選別すべく、漁師さんと共同で研究を進めています。

海の生態系の崩壊は人間にも影響する

木本:無駄な殺生は減っていて、改善していると。

こちらはシュモクザメ(写真:MTV1983 / PIXTA)

沼口:いまのフカヒレ漁がそれほど悪いかというとそうではなくて、ヒレだけを取るフィ二ングは減っています。

木本:サメを頂点にした生態系が崩れると、いつか人間にも影響がありますよね。

沼口:そのとおりです。ただ過剰にサメだけを守ろうという人もいるので、それは違うと思っています。

木本:クジラのように、熱狂的な支持者もいるんですね。

沼口:実際にどうなのかを、自分なりにきちんと調べて、実態をのみ込んでから保護を考えたいものです。自著『ほぼ命がけサメ図鑑』は、子どもたちが読んだときに、偏った見解を持たれるのが嫌だったので、できるだけニュートラルに書きました。

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