アメリカのニュースをフェイスブックやツイッター、ケーブルテレビ経由で得ているとしたら、米国は救いがたいほど分断されてしまったかのように見えるかもしれない。確かに米国では所得格差や都市部と地方との格差が拡大し、雇用も一段と不安定化。社会階層はさらに固定的となり、政治的な分断も深まっている。全国ニュースがこうした問題を集中的に取り上げるのも、もっともなことだ。
問題は、地方紙が空洞化し党派色の強い全国ニュース一色になってしまったことにある。シリコンバレーのような活気のある地域でさえ、地方紙の沈下は止まらない。同地域を地盤に、かつては全米有数の読者数を誇ったサンノゼ・マーキュリー・ニュースも、1990年に400人いた記者は今では40人ほどに減っている。
5年かけてプロペラ機で全米を取材
大半の米国人にとっての日常は、全国ニュースの毒々しい見出しとは懸け離れている。連邦レベルではトランプ大統領も共和党議員も格差や気候変動といった重要問題に真剣に向き合おうとしていない。が、地方自治体は格差や気候変動への対策に動き出している。社会階層や支持政党に関係なく、地元を住みよい場所にしようと奮闘するアメリカ人は少なくない。
存在感ある地方メディアが消えてしまったせいで、地方の前向きな動きを知る機会は大幅に減ってしまった。地方の実情を教えてくれる数少ない報告の1つが、ジェームズとデボラのファロウズ夫妻による新著『アワ・タウンズ(私たちの町)』だ。
夫妻は5年間をかけて、プロペラ機で全米を飛び回り、各地で進む改革の動きを取材した。米国が急成長を遂げた19世紀後半の「金ぴか時代」と現代には共通するものがある、との主張には説得力がある。当時は連邦レベルで改革機運が高まる前に、地方では行動計画が完成していた。