企業による投資や賃上げが財政再建のカギだ 「経済成長」や「緊縮財政」だけではダメな理由

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2014年度に消費税率を5%から8%に引き上げた際には、期待されたほど賃金が伸びず、増税による実質的な所得減少に対応して家計が消費量を減らしたため経済が低迷してしまった。そのため、当初2015年10月に予定されていた10%への引き上げは、2017年4月へと1年半延期された。2016年には世界経済の下振れリスクを理由に、消費税率の引き上げ時期が2019年10月までさらに2年半先送りされている。

こうしたことから、経済が成長して家計の所得が増えて増税分を上回れば、消費が減らないので税収は落ち込まず、財政再建が実現するように考えられがちだ。だが、全部門のISバランスを合計するとゼロになるという制約を考えると、成長の実現だけではうまくいかないはずなのだ。

民間の貯蓄が減らないと財政再建できない

のちほど海外経済も含めた場合を考えるが、まず海外経済を無視して、日本国内の経済活動だけを考えよう。

増税前の経済では、民間支出が80兆円、政府支出が20兆円でGDPは100兆円だったとしよう(表の①)。政府の税収が10兆円だったとすると、政府は20兆円の支出に10兆円の税収しかないので財政収支(政府の純貯蓄)は10兆円の赤字だ。一方、民間の可処分所得はGDP生産=所得から税を控除した90兆円で、支出が80兆円なので純貯蓄は10兆円の黒字だ。

GDPが10兆円増加して110兆円になり、増税しても民間の可処分所得が減少しなくなったと仮定しよう(表の②)。10兆円増税しても可処分所得が増税前と同じなので民間支出は80兆円のままで減少することはないはずだ。政府部門は20兆円の支出に対して、税収が10兆円から20兆円に増えるので財政収支はゼロになり均衡することになる。

経済成長による所得の増加で増税しても財政再建に成功してめでたしめでたしとなっているように見えるが、実はこれは実現できないはずのシナリオだ。なぜなら日本経済全体のISバランスの合計が10兆円のプラスになっていて、合計がゼロという制約条件を満たしていないからである。

財政収支(政府部門のISバランス)が10兆円改善するためには、民間部門のISバランスの10兆円の悪化が必要だ(表の③)。GDPが拡大して増税後でも民間可処分所得が増税前と同じ90兆円になるだけでなく、可処分所得が増えないのに民間支出が10兆円増加する必要がある。

もっとGDPが拡大すれば問題が解決するのだろうか。たとえばGDPが2倍の200兆円になった場合を考えると(表の④)、民間部門の可処分所得は増税後で180兆円と2倍になる。この場合、民間支出は可処分所得以上に増加して180兆円の2.25倍に増えないと日本全体のISバランスゼロという条件を満たせない。財政収支が10兆円改善するためには、民間部門が可処分所得の増加分を10兆円上回って支出を増やし、民間部門のISバランスが10兆円悪化する必要があるのだ。

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