ISバランスは、海外、企業、家計、政府という4つの部門に区分してみることが多い。日本では1994年度以降2016年度まで、企業と家計を合せた民間部門はISバランスが大幅な黒字で、政府と海外が大幅な赤字となってきた。
1990年代半ば頃までは民間部門のISバランスの黒字は家計部門の黒字によるものであったが、高齢化が進んで家計の貯蓄率が次第に低下してきたため家計の黒字は縮小している。2013年度には消費増税前の駆け込みで家計が消費を増やしたために、家計部門のISバランスはマイナス(純借入)となった。一方、企業部門のISバランスは、高度成長期には赤字だったものが1990年代のバブル崩壊を境に黒字に転じ、2000年代に入ってからは民間部門の黒字の大部分が企業部門の黒字によるものである。
日本は1980年代以降経常収支の黒字が続き、海外部門は大幅な純借入という状態が続いている。1980年代から90年代にかけては、日本の大幅な経常収支黒字は対外経済摩擦の原因となっていた。
先ほどの表の例では海外経済を無視していたので日本の経常収支が変わらず、②のケースは実現不可能だったが、経常収支黒字を10兆円増加させれば実現可能だ。外需(輸出マイナス輸入)が大幅に増加して経常収支黒字が拡大すれば、財政再建に成功することになる。問題はそれでは対外経済摩擦を深刻化させてしまうだろうということだ。
企業の黒字を減らして投資や消費に回せばよい
2017年度の日本の経常収支の黒字幅は、21.8兆円、名目GDP比では約4%と、かなりの規模になっている。中国だけでなく日本の経常収支黒字もグローバル不均衡の大きな原因であることは、6月29日のコラム「経常収支の不均衡が続くと心配なのは新興国」でも指摘した通りだ。また、これだけの黒字はかなりの円高圧力で、異次元緩和による超低金利があっても、さらに黒字幅を拡大させれば円高を引き起こしてしまう危険が高まる。
財政赤字を削減して政府債務残高のGDP比を減らすことは、財政だけの問題ではなく、日本経済内部のバランスを大きく変えなくては実現できない。財政赤字が縮小する分を、家計・企業・海外の各部門がどれだけISバランスを悪化させて吸収するのかを考える必要がある。内閣府の試算では、「成長実現ケース」は「ベースラインケース」に比べて、財政収支は1.5%ポイント改善幅が大きく、このうち1%ポイントは民間部門のISバランスの黒字縮小、0.5%ポイントが海外部門のISバランス赤字の拡大(日本の経常収支黒字の拡大)によるものになっている。
民間部門のISバランス黒字の主因は企業部門の黒字なのだから、企業の利益と賃金との間の分配割合が変えたり、企業の投資意欲を高めたりするなど、経済構造を大きく変化させて、企業部門のISバランス黒字を大きく減少させることができないかぎり、財政再建は行きづまる。歳出削減と増税の組み合わせだけではなく、財政赤字がないとバランスしないという現在の日本経済の構造をどう変えるのかという戦略が必要なのだ。
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