迷走3カ月で本命に戻った財務次官人事の裏 最強官庁の復活は「日暮れて道遠し」

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この佐川、福田両氏の連続辞任に伴うツートップ不在は、国家財政の要となる財務省の機能不全にもつながるため、政府与党内では「後任人事に時間をかけるべきではない」(自民幹部)との声が多かった。しかし、国会では森友問題を安倍晋三首相の"泣き所"として、野党側の厳しい追及が続く中、大阪地検による公文書改ざん事件の捜査への財務省側の配慮もあって、「人事は先送りせざるを得なかった」(政府高官)のが実情だ。

しかも、政権内部の不祥事連発で国会での重要法案の審議が進まなかったため、政府与党が32日間という予想外に大幅な会期延長に追い込まれたことで、人事断行までの空白は想定以上に長期化した。このため、今後の経済財政運営の指針となる「骨太の方針」なども時間不足の中でまとめられるという例のない事態に陥り、政府部内での財務省の権威も大きく傷ついた。

その一方で、今回の一連の幹部人事は、浅川氏の財務官続投を除いては、「結果的にほぼ予定調和の陣容」(財務省OB)となり、人事面での不祥事の影響は限定的となった。これは、会期延長直前の6月10日の新潟県知事選での与党勝利がきっかけとなって、政権が態勢を立て直し、内閣支持率も回復して、野党の森友問題での攻撃を沈静化させたことが背景にあるとみられる。同省幹部も「時間をかけたことで、結果的に人事がガタガタになるリスクを回避できた」と"怪我の功名"を口にした。

財務省にとっては「結果オーライ」(OB)となった幹部人事だが、水面下での首相も巻き込んだ人事調整が迷走したことで、財務省の権威は地に堕ち、省内にも深い傷跡が残ったのは間違いない。しかも、「1強政権への忖度」(自民幹部)もあって、佐川氏ら理財局幹部による公文書改ざんの「本当の動機」などは解明されず、最高指揮官の麻生財務相の責任問題も宙に浮いたままだ。

このため、首相が自民党総裁選で3選されれば秋口に召集される予定の次期臨時国会でも、野党側の厳しい追及は避けられず、岡本次官以下の幹部も「針のむしろ」に座り続けることになる。加えて、今回の人事をめぐる混乱の後遺症も財務省の権威復活への大きな壁になりそうだ。

20年先の次官まで決まっていた

外務省や経済産業省など他の有力官庁と比較しても財務省の人事は「安定感抜群」という定評があった。入省年次が優先される中、それぞれ若手時代からキャリア官僚としての評価が固まり、「20年先の次官まで決まっている」(財務省OB)というのが最強官庁という権威の源泉でもあった。

同省との交流を重視する財界幹部や、いわゆる「モフ担」(モフは財務省の英語名の頭文字MOF)と呼ばれる金融業界の財務省担当にとっても「他省と違って、出世コースから外れることがない財務省エリートは、付き合いやすいし信頼もできる」存在とされていた。

そのため、マスコミにとっての財務次官人事は、日銀総裁人事に次ぐ重要な取材案件と位置づけられていた。ただ、「早い段階から本命が固まる財務次官人事は、書くタイミングさえ気をつければ誤報にはならない」(担当記者)のが常識で、担当記者にとって「切った張った」の際どい取材とはなりにくかった。ところが、今回の後任次官人事では、メディア各社の報道が過去に例のない混乱に陥った。

セクハラという、これも過去に例のないスキャンダルで辞任となった福田氏の後任人事だけに、メディアの取材合戦は激化した。改ざん事件の省内調査がほぼ決着した6月2日から3日にかけて、「朝毎読」と呼ばれる大手新聞3紙と産経新聞が相次いで報じたのが星野次彦主税局長(1983年)の次官昇格説だった。しかし、後れを取ったかに見えた日経がほぼ1週間後の10日に浅川雅嗣財務官の「次官への横滑り」を大見出しで報じ、各社の取材は迷走状態となった。

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