資本主義の問題は「結論を出さない」が重要だ 池上彰×丸山俊一「資本主義の闇」対談<上>

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ただ、マルクスは優れた分析をしているけれども、じゃあその先どうすればいいのかというものがないんですよ。そこをレーニンやスターリン、毛沢東が手探りでやってみたら大失敗したわけです。そこに、こういった哲学的なアプローチというものが必要なのかなと。マルクスだって、ヘーゲルやフォイエルバッハなどの影響を受けているわけですからね。

経済に歴史の知恵を用いよ

丸山:『欲望の資本主義』ではアダム・スミスとケインズ、『欲望の資本主義2』ではマルクスとシュンペーターを番組の構成上の背骨にしました。池上さんがおっしゃるように、実は僕は、大学時代に読んだシュンペーターの言葉が非常に強く記憶に残っていたのです。「資本主義は自壊する」「経済的に成功するが、その成功ゆえに文化的に自ら壊れる」と。

丸山俊一(まるやま しゅんいち)/ NHKエンタープライズ 番組開発エグゼクティブ・プロデューサー。1962年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。「英語でしゃべらナイト」「爆問学問」「ニッポンのジレンマ」「人間ってナンだ?超AI入門」「ネコメンタリー」他、異色の番組を開発し続ける。早稲田大学、東京藝術大学で講師を兼務。著書に『結論は出さなくていい』(光文社新書)他 (撮影:梅谷 秀司)

今回の企画のために改めてシュンペーターの『資本主義・社会主義・民主主義』を読み直してみますと、マルクスをかなり評価しているところから始まるんですね。では、シュンペーターはどの部分でマルクスを評価していたのだろうか、というところから解き起こしてゆきました。

すると、『欲望の資本主義2』に所収させていただいたダニエル・コーエンさんが語っているように、いまの新しいデジタル技術が成長を生まないことに対する疑問など、技術というものが社会を規定してしまうということに関して、シュンペーター―マルクスというラインで考えると、かなりの状況が現代に当てはまってくるわけです。最初の『欲望の資本主義』でもアダム・スミス、ケインズを再考したわけですが、いま現在のフロントランナーだけでなく、歴史の積み重ねの知恵をうまく入れてゆけたらと考え、今回のアプローチになりました。

池上:実に久しぶりにシュンペーターの名前を聞いたと思いましたよ。普通、シュンペーターと言えば「創造的破壊」とか「イノベーション」とかが取り上げられるのですが、そうでないところが出てきたというのが非常に新鮮でした。

技術の話も興味深い。アメリカはITとファイナンスが合体してフィンテックになり、アメリカ経済はフィンテックによって表面的には豊かになっているように見えますが、その実、とてつもない貧困が広がっています。技術が発展すれば豊かになるのではないか? なのに、なぜ豊かにならないのか? そんな大きな問題が見えてきますね。

そして、この本を読んでいるうちに、マルクスの「資本の有機的構成の高度化」という言葉を思い出しました。有機的構成が高まれば、オートメーション化されるなど技術が進むのですが、それは労働者の貧困をも進めてしまう。「その現代版か!」と思いながら読みましたよ。

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