資本主義の問題は「結論を出さない」が重要だ 池上彰×丸山俊一「資本主義の闇」対談<上>

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池上:異端の経済番組ですよね。似たような番組はほかにありません。経済と言えば、まずはウォール・ストリートを取材するとか、金融資本がどれだけ儲けているのかとか、そういったベタなものはありますが、文明論として見ていくなんて、なかなかのものだなと思います。

私たちはどこからきて、いまどこにいて、どこへ行こうとしているのか。ゴーギャンじゃないですけど、まさに現代、そういうことを知りたかったと感じる人々が大勢いるのだろうと思います。『欲望の資本主義2』では、ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルとチェコ共和国の経済学者トーマス・セドラチェクという異色の対談が収録されていますが、どのような発想でこの組み合わせになったのでしょうか?

丸山:第一には、2016年5月に総合テレビで放送したシリーズ1作目「欲望の資本主義 ルールが変わる時」に登場していただいたセドラチェクさんの存在が大きかったことですね。正統派の経済学を学びながらもさまざまな神話や映画のメタファーが飛び出すセドラチェクさんの『善と悪の経済学』を読んで、これは非常に面白いと。この方にいまの日本を見てもらったらどうなるのか興味を持ち、番組にお呼びしたところ、大きな反響を得たわけです。

『欲望の資本主義2』や『欲望の民主主義』で話題となったマルクス・ガブリエルさんが日本を旅する番組『欲望の時代の哲学~マルクス・ガブリエル 日本を行く』はNHKのBS1で7月30日(月)21:00~再放映予定(写真:NHK)

この1作目の後、トランプ大統領が誕生。フランスでも大統領選のタイミングで、今度は民主主義についても同じような問題意識、手法で考えてみようということになって、2017年4月のBS1スペシャル「欲望の民主主義 世界の景色が変わる時」では、哲学者のマルクス・ガブリエルさんや、社会心理学者のジョナサン・ハイトさんらにも、「民主主義とは何か?」など、あえて原初的な問いをぶつけるという試みにつながりました。

資本主義にせよ民主主義にせよ、近代がいま終わりつつあるという言い方をする方もいますけれど、こういう大きな時代の変化の分岐点では、専門化した経済学のものの見方だけではない、もっと根源的な知のあり方、考え方が反映できないものかと考えたわけです。それがこういった異色の組み合わせとなりました。

「結論は出さなくていい」が結論

池上:なるほど。してやられた感がありますよ。私も大学で経済学を教えてはいますが、経済理論は処方箋でしかないんだよという話し方になります。「大不況の後にケインズ理論で政策をとったら、その時はうまくいったものの、やがてスタグフレーションに……」というように、一時的には効くけれど、薬剤耐性と同じですぐに効かなくなるものだ、と。でも、そもそもその背景には何があるのかということを私自身ではうまく言えなかった。そうか、その手があったか、と思いました。

たとえば、医学は医学でも、医療における基本的なものの考え方というものがありますよね。実は薬は病気を治すものではなく、人間に本来備わっている治癒力を手伝うもの。じゃあその本来の力とは何なのか。それがわからなくて病気になったり、カンフル剤で無理やり調子を上げてすぐダメになったり……経済はそれを繰り返してきたのではないかというところを考えさせてくれる本ですね。

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