帰宅した和也に問いただすと、和也は、「そうだよ! 俺だってストレスが溜まってんだ!」と、唐突にキレ始めた。そして、麻美さんの髪の毛を引っつかむと、突如として窓ガラスに叩き付けた。ガッシャーンと大きな音を立てて窓ガラスが割れた。それがDVの始まりだった。
「何が何だかわからなくて、状況を把握するのに少し時間がかかりましたね。ああいう瞬間ってすごいスローモーションなんですよ。ガラスの破片って、こんなにもキラキラと輝きながら粉々に飛び散るんだなーって、妙に冷静に眺めている自分がいましたね。それと同時に、もうこの人とは本当に終わったなーと思ったんです。
その後、すぐにわれに返ると、身の危険を感じて、『この人に殺される!』と窓の外に向かって大声で叫びました。深夜の1時を回っていたのですが、案の定、すぐに警察と近所の住民がドアを叩いてきたんです。私は救急車に乗り込んで、和也は警察に連行されていきましたね。離婚は最終手段だと思っていたんですが、もう、離婚するしかないかもと思い始めました」
なんと奇跡的にも、麻美さんは無傷だった。和也は、警察からすぐに解放されたが、その後、麻美さんの携帯に届いたメールには謝罪どころか、恨み節がつづられていた。
「お前のせいで、マンション中に謝りにいかなきゃいけない」
そのメールを見て、もう終わりにしなくては、と離婚を決意した。離婚するには、まず自分自身が経済的に自立しなければならない。娘は当時3歳だったが、事情を知った実母が全面的に子育てをバックアップしてくれることになり、麻美さんは正社員の仕事を探し始めた。
案の定、すぐにWeb制作会社のディレクションというポジションが見つかった。数年ぶりの制作の仕事は、とにかく楽しかった。何よりも、和也と離れるための経済力という自信がついたのが大きい。
トイレットペーパーの替えがないという理由で激怒
しかし、麻美さんが働き始めてから、和也のDVはますますエスカレートしていった。
ある日、麻美さんが仕事から、早く帰宅して家事を終え、一息ついていると、後ろから1.5リットルの炭酸飲料のペットボトルが頭の横をかすめた。何が起こったのか、麻美さんには理解できなかった。
「仕事から帰ってきて、私が先にくつろいでいた姿を見て、イライラしたみたいですね。一度キレると、スイッチが入ったかのように、止まらなくなっていろいろモノが飛んでくるんです。いくら、『ごめんね』と謝っても止まらない。怖くて、無言で娘を抱えて裸足で走って実家に逃げました。
友達に相談すると、『それってDVじゃない?』と指摘されましたね。怒った後は、横柄な態度を改めると謝るんです。『穏やかないい男になります』と念書を書いて、冷蔵庫に貼っていたこともある。でも、結婚生活を通じて感じたのは、人間はそう簡単には変わらないということです」
DVの原因はいつもささいなことだった。たとえばトイレットペーパーの替えがないという理由で、目の色が変わるほど激怒する。怖くなって逃げようとすると、「なんで逃げるんだ!」とスリッパが飛んできたこともある。麻美さんはそのため幾度となく、娘を抱えて家を飛び出し、実家やビジネスホテルで一夜を過ごした。翌日に帰宅すると「本当にごめん!」とまるで、別人のように平謝りする。和也は典型的なDV夫だった。
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