金利上昇がもたらす、悪夢のシナリオ デフレ脱却なら、日本の財政はどうなるのか

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異次元緩和の真の目的は国債の貨幣化

現在政府が立てている財政再建目標は、プライマリーバランスに関するものである。しかし、以上の計算から分かるように、重要なのは、国債費も含めた財政支出全体の収支であり、プライマリーバランスではない。

日本やイタリアのように国債残高が大きい国では、利払いが問題になるのだ。11年にイタリアの国債利回りが急騰したのも、そのためである(イタリアのプライマリーバランスは黒字である)。

日本の財政は、異常な低金利の下でかろうじてもってきたのだ。金利が上昇すれば、破局的な状態に陥る。そして、金利が低下したのは物価上昇率が低下したためだから、日本の財政は、デフレから脱却しないからこそ、もっているのである。

ところが、日銀は物価上昇率を2%に高めるとしている。政府は実質成長率を2%にすることを目的としているから、名目金利は最低でも4%になる。だから、ここで述べた「悪夢のシナリオ」は、決して机上の空論ではないのだ。

ただ、以上で述べたのは国債を増発しない場合のことである。仮に国債増発が可能なら、それによって増加した利子を支払うことができる。

もちろん、通常の状況では、国債を増発すれば、金利上昇に拍車を掛ける。しかし、日銀が購入すれば、その問題は解決される。

今回の異次元緩和は空回りしており、金融緩和の効果は生じていないとこの連載で指摘した。しかし国債購入という観点から見れば、異次元緩和は重要な役割を果たしている。

特に、残存期間が長い国債をも購入の対象としたことは重要だ。銀行は長期国債でも、購入後すぐに日銀に売却できるからである。これは、財政法第5条で禁じられている日銀引き受け国債発行の脱法行為だ。つまり、国債の貨幣化によっていくらでも国債を発行するための制度的な準備は、すでにできているといってよい。その意味では、異次元緩和措置は、見事に首尾一貫している。

週刊東洋経済2013年11月2日特大号

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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