しかし、パガーニのビジネスは最初から順調だったワケでもなかった。ゾンダはスーパーカーの頂点たるフェラーリよりも高価なクルマである。それを何のバックグラウンドもない新興メーカーが作るのだから、クルマの出来は評価されたものの、はたしてリセールバリューが、しっかりとキープされるかと疑問視された。
そこでオラチオが香港のパガーニ・ディーラーであるS.P.Sと共に開発したのが、ゾンダ・チンクエだった。チンクエとはイタリア語で“5”を表す。つまり5台限定のナンバリング入りスペシャル・モデルであった。この企画は世界の富裕層に大きく刺さり、即時完売となった。それを契機にパガーニが大きく注目されたのだ。
パガーニの躍進は、スーパーカー界でもごく少数の限定数量モデル、さらに1台のみというワンオフカーが大人気となるきっかけともなった。パガーニのリセールバリューはマーケットで確立され、3年待ちと言われても、皆が競ってオーダーを入れはじめた。
パガーニ本社の国旗
最後に、オラチオがセールスマンとしても優秀であることも付け加えておきたい。私が初めてパガーニ本社を訪ねたときのことだ。社屋にアルゼンチン、イタリア、そしてカナダの国旗が掲げられていたのを見つけた。
オラチオの祖国、そしてここイタリア、前者2つの意味はすぐにわかるが、3つ目は不明だ。カナダの国旗の意味を訊ねる私にオラチオはこう答えた。「うちには世界の国旗がそろえてある。答えは簡単だ。今日はカナダのお客様が訪ねてくるからね」。
注文書にサインしようとやってくる顧客達はオラチオのホスピタリティにイチコロになるようだ。オラチオの熱心なセールスにより特別仕様が次々と加わり、考えていたよりも相当に高額となった注文書の控えを手に顧客はパガーニ社を後にすることになるのだ。
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