各種資料を見ても活字化されたのかどうかよく分からない最初期のジュヴナイル(少年少女向け書籍)、『超成層圏の秘密』や、同じく最初期の作品である『この子の父は宇宙線』、『反地球人』、更には文庫化されたいわば「一軍選手」であるにも拘わらず「夜ごと人妻のもとに忍んでくる河童の正体は?そして起る火事と相次ぐ殺人-」というあおりからして怪作臭漂う『河童火事』などが、主峰から外れた一群といえる。
新田トンデモ系作品の頂点
そしてそういった新田トンデモ系作品群の頂点に君臨?する作品がUFOを扱った長編『夜光雲』である。
『夜光雲』の刊行は、彼が作家専業になった翌年の昭和42年(講談社)。既に昭和40年から開始した最高傑作『武田信玄』の連載真っ最中で、作家としての気力が最も充実した時期である。
しかし帯の惹句は「昭和40年3月18日午後7時、瀬戸内海上空で、東亜航空のコンベア240機と東京航空のパイパーアパッチJA3231機が、空飛ぶ円盤らしいものに追跡される、という事件があった。この実際の事件を材料に、空飛ぶ円盤の秘密を追及する若きパイロット今里真一の情熱と愛を描く」とあり、既にここからしてキワモノ臭がぷんぷん。
惹句にあるように、ある夜、副操縦士として搭乗中、大型の強い光を放つ謎の球体に遭遇した西海航空パイロットの今里真一が、星雲を神と崇める新興宗教の教祖(凄腕催眠術師でもある)にみこまれ、教祖の娘と結婚して教団の跡取りとなるよう求められたり、UFOのキワモノ的研究を続ける「世界空飛ぶ円盤実証会日本支部」の会長(凄腕手品師でもある)のだまし討ちに遭い、幹部会員として協力を強制されたりする。
こうした様々な困難にも拘わらず、専門的な科学者の力も借りつつ、要所要所に現れる5人の美女と、思い思われながら、発光物体の正体を追及していく、といったところが非常にざっくりとした作品のアウトラインだ。
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