日本人は「感情労働者」を搾取しすぎている

企業による従業員への笑顔強制は筋違い?

こうしたリスクにさらされる人は、産業構造の変化とともに激増している。というのも、農業や製造業といった高度な対人関係をそこまで求められない雇用が激減し、代わって、サービス業の雇用が増えているからだ。

1950年には農業・林業・水産業等の第一次産業と、鉱工業・製造業・建設業等の第二次産業の従事者が合わせて約7割を占めていたが、2012年には、金融・情報通信、卸売り、小売りなどの第三次産業従事者が約7割に上っている。

総サービス産業化が進む中、昨今はソーシャルメディアなどで、客がサービスへの不満をネットで告発するなどといったことも容易になっていることもあり、クレームやトラブルを恐れる企業側が、客への接遇を強化している背景もある。

銀行に行っても、やたら丁寧に頭を下げられたり、カウンターの中にいる行員たちが一斉に、「ありがとうございました」などと声をそろえる姿に、海外のそっけないサービスに慣れている筆者は「そこまでしてくれなくてもいいのに」と恐縮してしまう。病院に行けば、わがままな患者の不平不満を上手に受け止め、献身的に尽くす看護師さんたちの姿には本当に頭が下がる。

最近は、医師などにも、感じよく、患者とコミュニケーションをするようにとマニュアルを作成する病院などもある。もちろん、不愛想で説明が堅苦しい医師が多いのも事実だが、過酷な勤務の医療スタッフに、てきぱきと実務をこなす力以外に、接客業並みの「おもてなし」を要求するのは荷が重すぎるのではないかと感じなくもない。

クレーマー化する一部の客

一方で最近、一部の客が、必要以上のレベルのサービスを求めてクレーマー化し、サービス提供者に対し、「隷属的」「主従的」な関係性を押し付けているのは事実だ。最近、そうした現場で、疲弊する人が増えているのが、バス業界だ。

今年6月、千葉のバス運転手が、「客に暴言を吐いた」として処分される事案があった。バスのドアを閉め、出発しようとした際に、ドアをたたき、乗せるように要求した客を乗せたところ、客が「なんでドアを閉めたんだ」と詰め寄り、それに激高した運転手が「この野郎」「お前なんか降りろ」と吐き捨てた、という。

運転手はバスが遅れていたため、乗ろうとした客にマイクで「後続のバスに乗ってください」と説明し、ドアを閉めたということだった。もちろん、暴言はあってはならないが、ネット上では、そうした状況に置かれた運転手に対して、同情の声も集まった。

また、今年5月には、京都の運転手が客に対し、「何してるねん、後ろ下がれ」「あほか、気色悪い」と暴言を吐いたといった報道もあった。こちらも言語道断の行動ではあるが、最近の京都のバスの、立錐の余地もない異様な混みようを頭に浮かべると、運転手のイライラした心情が少しだけ理解できたりもする。

安全運転というミッションに加え、言葉のわからぬ外国人観光客の対応と、道路の渋滞、あふれかえる社内の乗客の安全の確保などなど、あの空間をさばかなければならない運転手に課せられる負荷は小さくないだろう。

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