「青田買い」「AO入試」が今後も増え続ける必然 「学力だけ」では大学に入れなくなりつつある

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私立における推薦・AO入試の割合は大学や学部・学科によりまちまちだが、すでに5割に迫る勢いのところも少なくない。募集人員については、推薦入試についてのみ5割を超えない範囲との規定があるが、これにAO入試や帰国子女入試、社会人入試などを加えれば、トータルで6割ないしは7割に届くといったことも可能性としてはありうる。

入試に詳しい人々の間からは「すでに2月の段階には、入学してほしい志願者がそもそもいないのではないか」という声さえ聞かれ、この動きがいつどこまで進むかは予断を許さない。

さらに、文部科学省は一般入試においても学力検査以外の多様な資料を用いて多面的・総合的に評価・判定することを求めている。受験者数が桁違いに多い私立大学がこの趣旨に合致した入試体制を構築する上でも、推薦・AO入試の規模拡大、一般入試の規模縮小は理にかなっているとさえ言える。

芭蕉を研究したいのに国際経営学科に

こういった動きに対し、「青田買い」との批判は実にもっともであり、高校教育への影響を勘案しても、決して望ましいことではない。しかし、主に秋季に実施されるという時期の問題を別にすれば、推薦・AO入試の規模拡大それ自体はまっとうな動きでもある。

すでに大学業界ではよく知られていることだが、成績の平均値であるGPAなどを指標に入学後の学修状況を入試区分別に見るならば、推薦・AO入試による入学者は、決して一般入試の学生たちに引けを取らない。

高校での成績からすれば、一般入試の学生の方が高いことが多いと推測されるが、GPAや卒業後の進路では逆転する場合もある。入学後、その学生が大学でうまくやっていけるかどうかは入試の妥当性を判断する主要な指標であり、その観点からすれば、推薦・AO入試は妥当性の高い入試方法なのである。

なぜ、このような現象が生じるのか。

現場の実感から言えば、不本意入学者の問題が大きい。一般入試が抱える構造的な問題に、結果的にかなりの割合の不本意入学者が出てしまうことがある。

20年以上も前の話になるが、クラス担任の新入生が入学直後に相談にきた。彼女の訴えによると、自分は国文学、それも松尾芭蕉の研究がしたいと言う。筆者は驚いた。なぜなら、彼女が入学を果たしたのは国際経営学科だったからである。

「わびさびを極めたい人が、どうして国際経営学科なの?」と尋ねたところ、「合格した大学の中で一番偏差値が高かったから」というのがその答えであった。

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