学校で広がる「起業家教育」、成功の2つの鍵

半径50センチ革命を起こす力を育てるには?

本当に重要なのは、誰かから課題を渡されたわけでも、誰から指示を受けたわけでもなく、日常の中に散在している商品の種に自ら気づき、それを大事に練り込むことで、「これをカタチにしてみたい」というエネルギーが自分の中に湧き上がることを感じることなのである。それこそが「主体性の発露」と言える。そして、自ら第一歩を踏み出した企画を、葛藤や困難を乗り越えながら、実際にカタチにしてみることがまさに本物を体験することだと言える。

しかし実際にはそうした取り組みが世の中には多くない。それは、生徒が生徒だけで見つけてくる新規事業やイノベーションの種には実現性が低いものが多いことが関係しているように思う。取り組む課題が大人から用意され、擬似的に行われる商品開発の授業に比べたら、実現までの距離が圧倒的に遠いアイディアがほとんどになるだろう。特に、意識の高い生徒や、興味関心がある生徒だけではなく、すべての生徒に学校教育としてプログラムを届けようとした時、この懸念は更に大きくなるだろう。

ただ、どんなに難しかったとしても、学校教育を通して行うことに意味があると筆者は考えている。それは、変化の激しい時代は、すべての人に訪れるからだ。膨大なデータ蓄積とAI(人工知能)の進化を軸にした第4次産業革命が進むとともに、日本は前例のない超高齢社会に突入し、大前提としてきた社会の仕組みが崩れ、過去の成功パターンを頼りにできなくなりつつある。その中で、より多くの人、多くの仕事に主体性や創造性、イノベーションやカイゼンを起こすような能力、課題発見力やチャレンジ精神が求められていくだろう。すでに多くの方がこの変化を感じ始めているのではないだろうか。

つまり、「50センチ革命」や起業家精神、起業家的資質といったものは、一握りの限られたリーダー層にのみ必要なチャレンジや能力ではなく、これからの時代を生きていくより多くの人にとって必要なものとなる可能性が高い。「資源の乏しい日本にとっては『人』こそ最大の資源」という言葉はもはや使い古された言葉だが、幅広くすべての人に次代を生き抜くための教育を届けること、そのために既存の学校教育という枠組みと協働していくことが重要なのだ。

そう考えるとハードルは著しく高く感じられるが、実はこのジレンマは2つ目の視点である「大人が決して正解を持っていないという前提に立つこと」で自ずと解消できると筆者は考えている。

教育現場の常識は、起業における非常識

世界中で、新規事業やイノベーション、起業といった新たなチャレンジが求められるようになって久しい今日、それを成功させるメカニズムを明らかにする動きも大変に盛んである。そしてそのほとんどが、「先行きを予測して計画的に事業を起こすことはできない」という前提に立つことの重要性を説いている。

例えば、新商品開発の世界では、「リーン・スタートアップ」という開発手法が主流となっている。アイディアを思いついたらすぐにカタチにして顧客に試してもらう、そして顧客が商品を使う場面を観察し、顧客の反応を見ながら、商品を改善していくという手法だ。これは、最初から成功することや、予定通りに開発を進めることの不可能性を受け入れて、まさにError & Learnを繰り返すことで成功に近づいていくという考え方である。

あるいは、2007年にナシム・ニコラス・タレブという研究者の『ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質』という本によって一躍有名になった「ブラック・スワン」という言葉がある。これは、「予測できない、非常に強いインパクトをもたらす発見だが、いったんそのことが起きてしまうと、いかにもそれらしい説明がなされ、実際よりも偶然には見えなくなったり、最初からわかっていたことのような気にさせられたりすること」を指す言葉である。

DropboxやAirbnbといった世界的有名企業を育て世に送り出してきベンチャーキャピタルであるYコンビネータの創始者・ポール・グレアムは、自らYコンビネータについて「ブラック・スワン農場のようなもの」と言っている。

つまりDropboxやAirbnbのような新たなビジネスは、世に出てしまえばあたかも当たり前で誰もが元から欲しがっていたかのように見えるが、それが生まれる前までは、そんなビジネスがうまくいくことなんて誰も予想ができないものなのだ。

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