学校で広がる「起業家教育」、成功の2つの鍵 半径50センチ革命を起こす力を育てるには?

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この「50センチ革命」という言葉は「小さな気づきを一歩に変える」ということを表している。世界を変えるような発明やイノベーションも、目を見張るようなカイゼンも小さな気付きからはじまる、その気づきを一歩に変え、50センチの革命を起こしていく力を身に着けていくということがこれからの教育に求められていく、というのだ。

ここに「起業家教育」という言葉は記されていないが、平成27年に経産省が文科省と協力して刊行した『「生きる力」を育む起業家教育のススメ』という冊子のなかで、「起業家教育」に期待できる効果として掲げていたチャレンジ精神、積極性、自己肯定感の向上と、50センチ革命を構成する力(自己肯定感や自己効力感、圧倒的な当事者意識、他者への共感力、課題の発見力、最初の一歩を踏み出す力など)には重なる部分が多く、根本的には近い思想があると言える。

このように、今後さらに推進されるとみられる「起業家教育」だが、より多くの子どもたちに50センチ革命の可能性を開き、起業家精神を育むためには2つの視点を持ってプログラムを設計することが重要だと筆者は考える。

1つ目は、「本物の体験をすべての生徒に届けること」、2つ目は「大人が決して正解を持っていないという前提に立つこと」である。

「本物の体験」が主体性を引き出す

50センチ革命の核にも、起業家精神の核にも「主体性」というものがある。しかし「主体性を育む」という言葉自体はすでに大きな矛盾をはらんでいる。スイスの心理学者であるジャン・ピアジェの発達理論を土台にした構成主義という考え方では、子ども自身を発達の主体と捉え、学習者が自ら知識を構成していくと考える。

この考え方に立てば、主体性は、育てるのではなく、元々全ての人々が持って生まれており、それが発露する環境をつくることが何より重要だと考えられる。そしてその前提に立った時、彼らの主体性を引き出す有効な手段として、「本物の体験をする」ことが挙げられると筆者は考える。

現在行われている起業家教育には、企業が自社の新商品やサービスの開発を中高生に体験させるような授業が多い。そういった授業では、新商品の開発や製品化を擬似的に体験することはできる。場合によっては実際に商品として販売されることもあるだろう。だが、そこで学べるのはあくまで商品開発の「プロセス」や「ノウハウ」なのである。

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