人は思っているほど「ありがとう」と言わない やってもらうのは結構当たり前

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まず、わかったのは、人は実に頻繁に(1分30秒に1回)誰かに頼みごとをすることだ(「塩を取ってくれる?」など)。そして、その頼みごとはたいてい聞いてもらえる(塩を取ってもらえる)こと。でも、そこで「ありがとう」と言うことは、非常にまれであることがわかった。

興味深いのは、相手(塩を取ってあげた人)も、感謝されることを期待していないらしいことだ。「ありがとう」と言ってもらえなくても、それが話題になること(「『ありがとう』くらい言ってよ」など)はめったにない。一方、頼みごとをされた人が、それに応じることができない場合は、たいていその理由を説明する(「私のところからも届かないの」など)。

親しい人は助けてくれるものと思っている

「実に不均衡な関係だ」と、エンフィールドは語る。「一般に頼みごとをされた人は、それに応じる理由は説明しない。これは、頼まれたら応じてやるのが社会関係のデフォルトになっていることを示している」。

一方、進化の観点から人間の互恵的行動を研究する学者の一部は、「ありがとう」と感謝する人が少ないことに、さほど驚いていない。

「私たちは、親しい人とりわけ家族は助けてくれるものと思っている」と、オックスフォード大学のロビン・ダンバー教授(人類学)は言う。「しかし『助けてくれるのは当たり前』という考え方は、親しい人間関係を緊張させる可能性がある」。

エンフィールドの研究チームは、感謝の表現にいくつかのパターンも発見した。英語とイタリア語の話者は、それ以外の6言語の話者よりも「ありがとう」と口に出して言う頻度が極めて高い(それでも7回に1回程度と少ないのだが)。

これは西ヨーロッパに「礼儀正しさという文化的イデオロギー」が強く存在するためだと、研究チームは考えている。だからといって、英語やイタリア語の話者が、他の言語の話者よりも感謝を感じているとは限らない。「感謝の言葉を言うことと、感謝の気持ちを持つことは、別の問題だ」と、エンフィールドは言う。

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