マダムが夢中!「介護福祉のアイドル」の素顔 役者の道を離れて介護予防の道へ
「納期に追われる生活で、日々の生活がどんどんすさんでいくんですよ。それまで映画やドラマに出る側だったのが、出る人を使う側の立場になって、舞台裏をいろいろ知って心が疲れたんですよね。誰かに使われる仕事ではなく、自分で思ったことを形にしたいと思うようになったんです」
独り立ちしようと考えたときに、思い浮かんだのは、「人にありがとうと言ってもらえる仕事がしたい」。久野さんは自分のスキルを生かそうと、プロフェッショナルのパーソナルトレーナーとして、be awakeを立ち上げた。1999年、21歳のときだった。
久野さんによると、当時、どこのフィットネスクラブでも、パーソナルトレーニングを受ける人の割合は3%程度だった。その3%の会員はフィットネスクラブにとって、月会費プラスαの収益をもたらす大切な顧客だ。
パーソナルトレーナーは美容師と同じで指名制なので、指名の多いパーソナルトレーナーの存在はフィットネスクラブにとって、大きなメリットになる。逆に言えば、人気のパーソナルトレーナーは引っ張りだこのため、常に新しい人材が求められている。
学生時代、ライフセービングや水泳のパーソナルトレーナーをしていた経験があり、ビジネスの現場で礼節を学んでいて、なおかつビジュアル的にも強みがある久野さんは、フィットネスクラブにとっていかにも有望だ。20代前半のパーソナルトレーナーはあまりいなかったが、仕事は順調に増えていった。実はその頃から、久野さんの顧客は、65歳以上の高齢者が多かったという。
綾小路きみまろ風のブラックジョークにも爆笑
「ライザップの影響で、パーソナルトレーニングというと若い人が筋トレやダイエットをするイメージがありますが、実際はパーソナルトレーナーをつけると金額が高くなることもあって、若い人はあまりいません。もともとフィットネスクラブの7割が高齢者なので、パーソナルトレーニングを受ける人も高齢者が多いんです。僕の場合、学生時代もそうでしたが、股関節の手術をして半年のリハビリが終わったけど家でどうしたらいいかわからない、脳梗塞でリハビリが終わったけどまだ麻痺が残っているような、高齢者の担当をすることが多かったですね」
祖父母は遠くに住んでいて、高齢者と距離が近かったわけではない久野さんは、当初、指名してくれる高齢者との会話に少なからず苦労したそうだ。特に困ったのが病気、障害などの医療用語。「知らない言葉」のオンパレードだったという。しかし、パーソナルトレーナーにとって、コミュニケーションは生命線だ。耳にしたことのない言葉があると、ひたすら調べた。このときに培った知識と会話の距離感や進め方が後になって生きてくる。
「腰が痛い人?」。6月26日、13時30分からスタートした介護予防教室の冒頭、久野さんが尋ねた。この日は30人ほどのマダムが参加していて、数人が「はーい」と手を挙げる。続いて、「肩こりがひどい人?」と聞くと、またパラパラと手が挙がる。「それじゃ、頭の調子が悪い人?」というと、ほぼ全員が「はーい!」と応じ、同時に、「あははは!」と笑いが広がった。
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