残った問題は生活費の赤字補塡で頼ってきたクレジットカードの借金があることだ。すでに150万円を超えている。自己破産するのか、コツコツと返していくのか。話を聞いているかぎり、自力で返済するのは無理だろう。債務整理や自己破産制度があることを、本人はよく理解していない。
雇用の選択肢が限られる外国人で、シングル家庭、さらに社会保障が受けられない、子どもたちは日本人なので母国の親族を頼ることもできない。異国の制度がわからない。孤独なので情報もない。彼女はいくつもの苦難を背負って、日々を乗り切ってきた。フィリピンに離婚という概念がないのも、日本の制度を理解できなかった大きな一因である。
「工場にはフィリピン人、ベトナム人たくさんいる。旦那さんがいない人は、みんな苦しい。子どもも苦しい。私も、みんなも、本当にどうしていいかわからない」
マイカさんは再び涙ながらに言っていた。3枚のクレジットカードもすでに限度額いっぱいで、村上さんとの出会いと支援がなかったら、マイカさんと子どもたちの家庭は破綻している。もしかしたら子どもたちは高校進学がかなわず、低賃金労働から抜けられない貧困の道をたどっていたかもしれない。
経済的援助までいかなくとも、会話し、状況を聞いてあげるだけでも、子どもたちの人生を変えるような大きな収穫があるかもしれないのだ。
1980年代後半、大流行となった優しいフィリピーナ
日本にフィリピン人女性が増えたのは1980年代後半からだ。
全国各地にフィリピンパブが乱立し、貧しさに苦しむフィリピン人女性はダンサーや歌手として活動する興行在留資格で入国した。彼女らのほぼ全員は自国と日本の人材ブローカーを介して、資格外活動であるホステスをやらされた。「優しいフィリピーナ」は日本で大流行となり、25歳のマイカさんは家族のためと親戚に説得されて日本行きを決断、来日してフィリピンパブで働いた。
月給はいろいろ引かれて、週6日働いてももらえるのは月9万円だけだった。おそらく彼女が知らない間に、勧誘した遠い親戚、自国や日本のブローカーに搾取され、最終的にその金額が残っている。マイカさんは月給9万円から5万円を、経済的に苦しいフィリピンの親に欠かさず送った。
この興行ビザの制度は、2004年にアメリカ国務省に「人身売買」と非難されて廃止となっている。
そして現在、日本国内は少子高齢化の渦中で人手不足に苦しんでいる。サービス業を筆頭に介護、建設、農業などは人材がまったく足りていない。政府は開発途上国の外国人に技能を教える「外国人技能実習制度」で、人材不足を外国人で解消することを決めている。規制緩和で介護人材も技能実習生に頼ることになり、数十万人単位でどんどんと外国人が入国してくる時代がすぐにくる。
これから日本人男性と外国人実習生の結婚、出産も飛躍的に増える。日本人夫の無責任によって、マイカさん一家は貧困に苦しみ続けた。日本は技能実習という建前で人手不足を外国人で埋めるなら、彼女のように貧困に苦しむ外国人女性、子どもの貧困を一人でも生まないために、あらゆる想定とセーフティネットの整備が必要だ。無責任に使い捨てる事態だけは、避けなければならない。
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