富士フイルム、先見えぬ買収と沈黙の古森氏 説明に株主の「納得感」が不十分だったワケ

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株主からも事業面ではゼロックス買収についての質問が多く、総会では助野社長を中心に買収の意義や正当性の説明が続いた。

そのほか、ここ2年程度は東芝メディカルシステムズの買収でキヤノンに競り負け、海外子会社での不正会計発覚も続いたことなど、危機感が足りないのではと指摘する株主もいた。

注力する医療事業の買収会見では饒舌だった古森会長(今年3月、撮影:大澤誠)

株主から不満の声が上がったのは、質疑応答の終了後のこと。ある株主から「古森CEOのコメントはないんですか?」という声が上がった。

だが、古森氏からは特に反応はないまま採決に移った。

会社側が上程していた、配当金や取締役と監査役11人の選任、報酬額の改定という4つの議案すべてが賛成多数で可決された。

なお昨年の総会で古森氏が話したのは、株主から「琴の先生の葬式で花束が届いていたのは古森会長の親族からか」という質問に対して、「琴の方面での知り合いはあまりおりませんので私ではないかと思います」という場面のみだった。

総会終了後に話を聞くと、ある男性株主は「ソニーや旭硝子はトップ自らが説明するが、古森さんは座っているだけだった」と失望の色を見せた。

米ゼロックスとの対立は深刻化している

特に波乱もなく終わった株主総会だが、富士フイルムHDとゼロックスの新経営陣の間での戦いは続いている。

6月18日、富士フイルムHDが米ゼロックスに対して、経営統合にかかわる契約を正当な理由なく終了するのは契約違反だとして、米国ニューヨーク州連邦地方裁判所に損害賠償を求める訴訟を起こした。

すると25日には米ゼロックスが、現状では2021年3月に富士フイルムHDとの契約更新を行わず、富士ゼロックスが担当してきた成長市場であるアジア太平洋地域へ進出するという旨の書簡を公表した。

この書簡に応じて、27日には富士フイルムHDがゼロックスの主張に反論。アジア太平洋地域にゼロックスが進出する場合、富士ゼロックスは市場で対抗すると同時に、逆にこれまで棲み分けて進出していなかった欧米では、富士フイルムの拠点を活用して販売に乗り出すという。

現在、米ゼロックスのオフィス用事務機器のほとんどは富士ゼロックスがOEM供給している。米ゼロックスは新たな製品供給源を見つける必要があり、富士ゼロックスにとっても、新たな売り先を確保する必要性に迫られる。ほかにも特許や商標権をどう扱うかなど、提携解消はそう簡単ではないだろう。

出席した株主からは昨年は不祥事について、今年は買収と一連の問題について、「説明に納得感が足りない」との声が上がる。いずれも古森氏が発言を控えたからだ。もう少し株主との"対話の質"を上げる必要はないのか。

遠山 綾乃 東洋経済 記者

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とおやま あやの / Ayano Toyama

東京外国語大学フランス語専攻卒。在学中に仏ボルドー政治学院へ留学。精密機器、電子部品、医療機器、コンビニ、外食業界を経て、ベアリングなど機械業界を担当。趣味はミュージカル観劇。

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