世界で広がる格差拡大がもたらす3つの懸念 資源競争は戦争を引き起こしかねない

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世界は「グローバルな崩壊」を経験する可能性を抱えている(写真:ipopba/iStock)
AI(人工知能)による経済の地殻変動、グローバル資本主義で広がる格差、自壊を始めた民主主義――。激動を続ける世界は、この先どこへ向かうのか。
国際ジャーナリストの大野和基氏が、世界の「知の巨人」8人と対話した論考集『未来を読む AIと格差は世界を滅ぼすか』からカリフォルニア大学教授のジャレド・ダイアモンド氏のインタビューの一部をお届けする。

技術発展により、いっそう格差が広がっていくのか

――AIの開発が人類に与える影響は甚大です。AI技術がますます進歩すると、勤労の概念や経済、民主主義のあり方も変わっていく可能性があります。未曾有の技術発展により、いっそう格差が広がっていくと思いますか?

私が専門外のAIについて話すことは適切ではありません。でも、格差についてなら話せます。格差は今世界で起きている最大の問題の一つです。

国家間の格差でいうと、裕福な国より貧しい国のほうが病人を多く抱えている現実があります。貧しい国は公衆衛生に投資することができないからです。最近では、エボラ出血熱やマールブルグ出血熱がアフリカで流行しましたし、1980年代に出現したエイズのような新しい感染症が今後出てくるかもしれません。このように、感染症のリスクが、格差によって世界にもたらされる問題の一つです。

ジャレド・ダイアモンド/カリフォルニア大学教授。1937年、アメリカ・ボストン生まれ。ハーバード大学で生物学、ケンブリッジ大学で生理学を修め、進化生物学、鳥類学、人類生態学へと研究領域を広げる。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部生理学教授を経て、現在、同校地理学教授。

二つめの問題はテロリズムです。国家間の格差が広がると、貧しい国の人々が、アメリカや日本、欧州など先進国の贅沢なライフスタイルに憤りを感じます。フラストレーションがたまった貧しい国にテロリストが出てくると、彼らは多くの支持を得ることがあります。だからテロリストは裕福な国から貧しい国に移動するのではなく、貧しい国から裕福な国に移動する傾向があります。

格差の三つめの問題は、他国への移住が止められないことです。貧しい国で政府が生活水準を向上させようと政策に取り組んでいても、人々は今このとき、高い生活水準を楽しみたいと考えるものです。その唯一の解決法は、貧しい国から裕福な国に移住することです。

アメリカでは移住を止めることができないことが判明しています。トランプ大統領であっても、国境を完全に閉鎖することはできません。島国である日本は、これまで国境を閉鎖することはアメリカよりも簡単でしたが、時間が経つにつれ、今後ますます難しくなるでしょう。

AIの発達が原因であろうと、ほかのことが原因であろうと、生じる格差は大きな問題をいくつも引き起こします。そのなかでも、とりわけ感染症の拡大、テロリズムの波及、止められない移住の問題が大きいということです。

次ページ格差がさらに広がるかは裕福な国の政策に左右される
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