国際収支でも、対外債務がどんどん膨張していって制御不能になるといったことが起こらず、経常収支が長期的にほぼ均衡していれば、毎年の収支は赤字であったり黒字であったりしても問題はない。日本のように人口構造が大きく変化する国では、高齢化がさらに進んでいった際には、これまでに蓄えた対外資産を適切に取り崩していけば高齢化の引き起こす生産力不足などの問題を多少は緩和することが可能なはずだ。だから、つねに経常収支を黒字に保つようにすることも、経済にとって最適ではないのである。
また、世界中の国の貿易収支や経常収支の合計はゼロになるはずで、すべての国の貿易収支が黒字になるというわけにはいかないという制約があって、家計の所得支出収支よりも黒字を出し続けるための制約は厳しい。ゼロサムゲームなので、経常収支の黒字を続けている国があれば、どこかで、経常収支の赤字が続き対外債務が累積する国が必ず出てきてしまう。
他国のことは考えずに自国の利益だけを考えればよいという意見もあるが、赤字を出し続ける国がいずれ通貨危機や金融危機を引き起こし、それによって黒字を出し続けた国も大きな損失を被る可能性があるのだから、黒字を出し続けることが必ずしも最善の策とはいえない。
一方的で長期的な赤字や黒字の累積は問題
以上のことを前提にしたうえで、世界の経常収支を眺めてみると、米国は長年大幅な赤字を出し続け、中国や日本は大幅な黒字を出し続けている。欧州債務危機以降はEU(欧州連合)も黒字を出し続けるという構造が続いている。トランプ大統領が挙げた理由は間違っているし、問題解決のためにしていることも間違っているが、米国の大幅な経常収支赤字が長期化していることは大きな問題で、対処が必要なものだということは正しいと筆者は考えている。
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