日本株は本当に米中貿易戦争で崩れるのか 米国の共和党は決して「一枚岩」ではない

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そうした産業界からの声は、報復関税の対象になる分野だけではない。たとえば鉄鋼製品に対して米国が追加関税を課した結果、国産品と代替できないものについては、そうした製品を利用する企業のコスト負担増になってしまうとして、機械業界などからも批判が寄せられている。そのような要望に一部応えるため、21日(木)には、米政権は一部の鉄鋼製品を関税の適用除外にする、と公表した。

また同日には、一部の通信社(ブルームバーグ)が、米政権内で対中強硬派と穏健派の路線対立があり「穏健派は中国と通商面で協議を再開したいと模索している」と報じられ、今後米中間の摩擦が緩和方向に向かうとの期待が生じた。

米国の保護主義的な政策が米経済をかえって痛めつけてしまう展開については、今後注意深く見ていく必要があり、おそらく2019年の米景気後退の一つの要因になりうると考えている。だがトランプ政権が、口先通りの強硬路線に突っ走るというより、ある程度の落としどころに対中・対欧で落ち着いていくとなれば、最悪の展開をいったん織り込んだ内外市場が、通商問題を当面の「市場の悪材料としては」消化し、徐々に日本株を含めて落ち着きから反転上昇に向かうのではないだろうか。

今週は日本株にとって、やや材料が乏しい週

さて、今週の日本株や日経平均株価の展開についてだが、述べたように徐々に貿易摩擦懸念は薄らぎ、株価は企業業績の改善に沿った上値探りに転ずると予想している。ただ、すぐに明るくなるかと言えば、まだ心理的に重石はひきずったままだろう。

今週は、2月本決算企業(主に小売、外食等)の、3~5月期の決算発表社数が増えてくる。そうした企業の月次売り上げや、すでに発表されている景気ウォッチャー調査などをみると、4月までの消費動向に対し、5月、特にゴールデンウィーク後は、厳しい情勢であったようだ。このため、一部企業の決算内容については、注意を要する。

以上を踏まえると、今週の日本の株式市況は、下値不安は限定的だが、上値を大きく追うのもまだ早過ぎるように見込まれる。今週の日経平均株価の予想レンジは、2万2300~2万2800円とする。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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