北朝鮮にとって「米国との融和」は自殺行為だ リビア・イランの非核化から見えて来る未来

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北朝鮮は「手を結べば体制は崩壊する」ことに気がついている?(写真:REUTERS/Jonathan Ernst/File Photo)
史上初の米朝首脳会談がシンガポールで行われた。その際、北朝鮮が核兵器保有をあきらめる代わりに、アメリカは体制保全を約束したことが話題となった。ドナルド・トランプ大統領は5月17日、北朝鮮の非核化について、いわゆる「リビア方式」を適用しないと断言した。
リビアは非核化後の2011年、中東民主化運動「アラブの春」によって、欧米諸国が反体制側についたことでカダフィ体制が崩壊した。2003年、リビア指導者ムアンマル・カダフィ大佐が、核兵器の放棄に同意したことが崩壊につながったという見方が強い。
だが、反欧米を標榜していたカダフィ体制は、2003年に欧米諸国と和解し、国際社会に復帰した時点でそのレゾンデートル(存在理由)は失われていた。それを知っている北朝鮮は、アメリカと手を結ぶかどうか、今揺れ動いていることだろう。
「手を結べば体制は崩壊する」――北朝鮮はそのことに気がついているのだ。北朝鮮はイランのように民間活用を主張し、時間稼ぎをしていく可能性もある。アメリカが完全非核化を急ぐ理由がここにある。
運命を分けたリビアとイラン、そして北朝鮮。3つの国から見えてくるものは何か。中東問題に明るく、『戦火の欧州・中東関係史――収奪と報復の200年』を上梓したばかりの著者が読み解く。

イランと同じ轍は踏まないアメリカ

米朝会談に先立つ2018年5月8日、トランプ大統領が2015年に同国および5カ国(英仏独中露)とイランが結んだ核合意からの離脱を発表した。そして、米国独自の制裁を再発動し、イランに厳しい制裁を科すことを表明した。

『戦火の欧州・中東関係史――収奪と報復の200年』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

イランは12年に及ぶ経済制裁解除と引き換えに、2015年7月14日、最終的に(1)遠心分離機約1万9000基を6104基に削減、(2)ウラン濃縮率を15年間で3.67%以下に制限し、保有量を15年間で300キログラム以下に制限、(3)ウラン濃縮に関する研究は15年間ナタンズ施設に限定、(4)IAEAが定期的に査察を行う──などを承諾していた。だが、トランプ大統領は、これでは10~15年後にイランは再び核開発に乗り出すとして合意を破棄したのである。

トランプ政権が北朝鮮に対して、朝鮮半島の完全な非核化を主張していたのは、まさにここに理由がある。もともとイランは、従来平和目的の核開発は核拡散防止条約(NPT)加盟国として当然の権利であるとの主張を繰り返してきた。イランは核を持つアメリカやイスラエルに対し、核開発をして何が悪いのか、と平然と抵抗していたのである。

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