カレーだけでなく、店主・嶋尾さんの“口上”もちょっとした名物だ。入店し、着席すると「うちは初めてでいらっしゃいますよね?」とメニューの説明が始まり、説明の最後に「いい仕事しますんでね、パクチーの追加はいかがでございましょう?」と聞かれる。素人とは何か違う、独特の空気感がある。
カレーを食べ終わった頃を見計らい、月替わりのデザートが運ばれてくる。そして最後に店を出ていく時には「ありがとうございました、いってらっしゃい!」とまた声を掛けられる。入店から退店するまでが、カレーと女優が織りなす1つの小劇場ととらえられなくもない。
「口上は、初めは無意識にやっていたのですが、それが面白いとお客さんに指摘され、そこから意識的にやるようになりました」(嶋尾さん)
予定を立てるのが大変だから…
彼女に、そんな間借りカレー店の“舞台裏”をのぞかせてもらった。
香川県出身の彼女は小さな頃からテレビっ子で、気づいたときには女優になるのが夢だったという。神戸の大学に入ってからは、演劇サークルで芝居に打ち込んだ。卒業後は大阪で1年ほど仕事をした後、女優を目指して上京した。そこで1年ほど研修生として劇団に所属し、その後、芸能事務所に所属して4年ほど活動。以降はフリーで女優活動を行っている。
「自分の年齢と実力では事務所に所属するのが難しく、現在は主にキャスティング会社を通じてお仕事をいただいています。ただ、前日の夜に仕事が決まることも少なくなく、予定を立てるのが大変です。フリーランスで女優をやり続けるにはどうしたらいいかを模索しています。
以前は生活費を捻出するために、飲食店のアルバイトをしていた。しかし、突然女優の仕事が舞い込んだときにバイトのシフトを入れ替わってもらうのが非常に困難だった。そこで思いついたのが間借りカレー店だった。思い切ってバイト先のオーナーに相談を持ちかけると「店は、昼間は空いているわけだし、やれるだけやってみたら」と承諾してくれた。2016年初頭のことだ。
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