大企業が教えを請う“ダイセル式”カイゼン活動

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他社より10年早かったベテランの大量引退

ダイセル化学は1919年にセルロイドの生産から出発した化学系メーカー。富士フイルムの母体である。セルロイドの製造技術を生かしたセルロース誘導体が基幹事業で、特に液晶パネルの部材となる偏光板保護フィルムなどに使われる酢酸セルロースなどが、主力製品だ。

同社が酢酸セルロースの製造を始めたのが51年。そのため、他の石油化学や繊維メーカーより10年以上早く大量採用の時期に突入した。47年生まれを中心とする団塊世代の引退で、技術の空洞化問題が浮上した2007年問題を、ダイセルは10年早く迎えていたことになる。

もともとがセルロイドメーカー8社の合併会社という系譜もあって、たとえば組合なども工場ごとにバラバラ。「90年代から社内組織をフラット化し、ベテランの技能の承継をいち早く進めようという意思は他社に比べても大きかった」と、同方式の生みの親である小河義美・執行役員播磨工場長は振り返る。

導入当初の工場の従業員数は740人。現在は60%減の290人まで減った。「1ドル=100円の円高にも打ち勝とう」という掛け声の下、リストラによらない少人化で、キャッシュフローの改善も進めてきた。

では具体的に、ダイセル方式とはどのようなものなのか。

その大きな特徴は、「ミエル・ヤメル・カワル」という3段階の工程を順番に踏むことだ。中でもいちばん大事なのが、「ミエル」。これまで見えていなかったムダ・ロスを徹底的に排除することから、生産革新は始まる。この基盤整備・安定化のための段階を踏まずして、ITシステムという“箱”だけを整備しても、人に焦点を当てなければカイゼンは成り立たない、という発想である。

ミエル→ヤメル→カワル 経験や暗黙知を表出させる

具体的には、まず、工場における受注から納品までの一連の業務を総ざらいする。現状の仕事の仕方や役割分担を再度確認したうえで、オペレーターの負荷解析を行う。トラブルの概念を通常よりも広く定義し、プロセス産業特有の見えないプラントの中身をミエル化させようというのだ。もちろん、見える部分が増えるだけ、この段階では従来よりもトラブル数は増加する。時として、“領海侵犯”への反感さえ巻き起こる。だが、「革新活動を進める際の障害の一つが、現状を否定することを拒否するメンバーの存在、すなわち抵抗勢力」と田中宏典・東洋紡敦賀機能材工場長(肩書きは当時)。ここを乗り切らねば次のステップへは進めない。

こうしたオペレーターの負荷低減と同時に、用語・表示の統一も同時に実施しておく必要がある。部門内で抱え込んできた暗黙知を、工場全体に敷衍(ふえん)する試みだ。

同一種類の原材料を自動車、電機など幅広い需要先へ供給するプロセス産業ではもう一つ、需要と生産とが直結して見えにくい特徴がある。そして各部門には、それぞれ創業にさかのぼる歴史の中で定着してきた図面、表示方法や物質、装置の名称がある。ミエル化は、現場と設備・管理部門の間に横たわるボトルネックを取り壊し、曖昧な見込み生産を減らすことを可能にする。このミエル化により、ダイセルは生産性(1人当たり売上高)を3倍にまで向上させることに成功した。


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