「紀州のドン・ファン」過剰な報道への違和感 謎解き重視、刑事ドラマ化するワイドショー

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まるで、毎日朝から夕方まで同じ刑事ドラマの中盤までを見せられているような……。たとえば、「『相棒』『科捜研の女』のある1話を、しかも中盤までのシーンばかりを繰り返し見せられている」ことになります。

まもなくイブの鑑定結果が出ますが、もし覚せい剤の成分が検出されたら事件は大きく動くでしょう。しかし、それでも「誰がどう摂取させたのか?」という謎解きが必要です。また、もし真実がこれまでの情報とは全く異なるものだったら、まだ刑事ドラマのスタートから10~20分程度の段階かもしれません。

残念ながら殺人事件は多く、目を覆いたくなるようなニュースが次々に飛び込んでくる中、バランスを重視するなら今回のような偏った報じ方はしないでしょう。各局のワイドショーがこぞって報じているのは、「紀州のドン・ファン」というフレーズを見ればわかるように、キャッチーでエンタメ性が高い事件だから。さらに、「刑事ドラマを思わせる、あやしげな背景や関係者をフィーチャーしやすい」という点も考えられます。

実際、すでに犯人が逮捕されている事件は、今回ほど多く報じられることはありません。「紀州のドン・ファン」事件と他の事件との落差が、エンタメ重視というワイドショーの報道姿勢を裏づけているのです。

現在、民放各局ともに、早朝5時から夜19時の大半の時間帯で、情報・報道番組(事実上のワイドショー)を生放送しています。まさに、「各局横並びの放送」であり、視聴者にとっては「どこも似た番組ばかり」なのですが、より深刻なのは「扱う事件や報じ方も、かなり似ている」こと。つまり、どの局のテレビマンも、かなり似たマーケティング感覚で番組を制作し、そこから抜け出せずにいるのです。

また、「『紀州のドン・ファン』のニュースが、民放各局の大半の時間帯で報じられている」という異様な状況は、そもそも「平日の日中はワイドショーばかり」にしてしまった各局の編成方針が問題とも言えるでしょう。

結末を誘導するようなストーリーテリング

連日の大量報道以外で、もう1つ気になる点がありました。

それは、視聴者を誘導するような報じ方。真実はどうあれ、現段階では「妻や家政婦が犯人であるか」のような報道姿勢は、ミスリードの危険をはらんでいます。刑事ドラマなら「多くの登場人物をいかに犯人のように思わせるか」が重要ですが、ワイドショーでも似たようなことをしているのです。

ワイドショーが報じているのは、フィクションの刑事ドラマではなく、ノンフィクションの事件。現段階では、妻も家政婦も疑いこそ受けているものの、被害者である可能性もあるのです。たとえば1994年の松本サリン事件で第一通報者の男性は、みずから不調を訴えたほか、妻が重体に陥るなどの被害者だったにもかかわらず、メディアは犯人扱いの報道を繰り返して世間の見方を決定づけてしまいました。

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