マレーシア「初の政権交代」の複雑すぎる事情

アンワルの恩赦・政界復帰で何が起きるのか

激しく対立していた両人がこのような関係になった背景には、旧野党連合PHと旧与党連合BNにまたがる情勢の激変があった。

第1は、マハティールが2016年にBNからPHに鞍替えしたことである。ナジブ・ラザク前首相がBNを率いていたとき、マハティールはすでに引退していたが、ナジブを汚職の理由などで強く批判するようになり、かつての敵であったPHの指導者となったのだ。今回の選挙でPHが大勝できたのはマハティール効果が大きかったと言われている。だから比較的スムーズに新政権の首相になれたのだろう。

第2は、アンワルが晴れて政界に復帰したことだ。アンワルの恩赦を推薦したのはマハティール新首相であった。マハティールとアンワルは和解したのであり、釈放後、アンワルはマハティール首相を支持すると表明している。

しかし、マハティールは92歳と高齢であり、首相を長く続ける意図はなく、1~2年でアンワルに譲るともいわれている。アンワルは70歳と、若くはないが、これまでの経歴と同人の実力をもってすれば、後継首相と目されるのは当然なのだろう。

新政権はどのような政策を打ち出すか。実は、過去の実績や発言を見るかぎり、マハティールとアンワルはかなり違っている。

マハティールは、マレー人を優遇する「ブミプトラ政治」を推し進めてきた中心人物である。「ブミプトラ」とは「土地の子」という意味であり、先住民族も含まれるが、大部分はマレー人であり、かつイスラムに限ると定められている。

優遇策をなくせば国家が成り立たなくなる

マレーシアは、歴史的、地理的な理由から多民族、多宗教、多文化の国家であり、70%近くがマレー人、中国系は25%、インド系は数%という民族構成になっている。この民族間のバランスを取るのは容易なことでないが、マレー人とイスラムが優遇されている。マレーシアの公認宗教はイスラムであり、公用語はマレー語である。

優遇措置の具体的な例は、企業の設立や納税、公務員の採用、国立大学への入学など枚挙にいとまがないくらいだ。盗賊も、多民族からなる場合は、マレー人が分け前を多く取るという。もちろん笑い話だが、マレーシアの状況を象徴している。

そんなひどい扱いを、中国系やインド系がよく受け入れているなと思われるかもしれないが、両方とも少数でありながら独立以前から経済界を牛耳っており、また、教育などの面でも競争力が強かった。だからマレー人は多数民族でありながら優遇策が必要であり、それをなくせばマレーシアという国家が成り立たなくなると認識されているのである。

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