筆記試験5時間!ドイツのエリート教育の中身 マークシートが多い日本のセンターと大違い

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欧州の歴史を見ると、中東やアメリカと民族、イデオロギーなどさまざまな角度からのつながりの歴史があるが、それらを網羅しておかねば答えられない内容だ。またナチス時代の反省や近現代を取り上げる「ドイツの歴史教育」でよく紹介されるが、口頭試験のテーマを見ると、あくまでも大きな歴史の中の一部として、他の時代区分と関連付けて理解しなければならないのがよくわかる。

ギムナジウムの教師には博士も多い

アビトゥアは18世紀末に端を発し、ギリシャ語やラテン語などの古典を中心にした知的教養(=文化)を持ったドイツ独特のエリートが養成された。それ以前のエリートは家柄などの出自によって決まっていたが、それに比べると、開かれた制度である。それでも低いとされる出自からの階層移動はなかなか容易ではなかったようだ。

それから、ギムナジウムの教師のほうも、エリートを養成するというのが仕事という意識があったようだ。そのせいか現在でもギムナジウムの教師には博士号を持つ人も少なくない。著述活動や、地元で政治活動を展開する人もいる。また19世紀の各都市を見ると、パワーマネジメントとでもいうようなかたちで、都市の質を高めていったのは「教養(=文化)」という価値を共有しているエリートの官吏たちだった。

一方、今日までの歴史を見ると、アビトゥアの取得者の質の低下など、時代によって出てくる問題点もあり、議論も起こる。またエリートたちがナチスの台頭を防げなかったという反省もある。それでも今回紹介した試験内容から言えることは、さまざまな要素を関連づける高度な思考力、そして他者に対して説得力のある記述・プレゼンテーションをする能力を必要とする点だろう。

昨今、日本の教育ではアクティブラーニングやグローバル人材育成など、さまざまな言葉が次々と出てくる。筆者は教育の専門家ではないが、そんな日本の様子を見ていると、まずは記述の量と質に傾注するだけでかなり変わってくるように思えるのだが、どうだろうか。プレゼン能力の向上にもつながるはずだ。さらに語学力が加わると鬼に金棒だ。

それから、ドイツ社会全般への効果に目を転じると、こういう教育を受けた層がドイツの社会にはいるわけで、言い換えれば、世界の構造を理解・意識しながら、地域社会で生活する「市民」たちがいるということだ。「街づくりは『役に立たない』文系教育が必要だ」や「ドイツの小学生が『デモの手順』を学ぶ理由」でも触れたが、地方のデモクラシーの質の底上げにかなり影響しているのではと思う。

高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト

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たかまつ へいぞう / Heizou Takamatsu

ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)在住のジャーナリスト。同市および周辺地域で定点観測的な取材を行い、日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか―質を高めるメカニズム』(2016年)『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか―小さな街の輝くクオリティ』(2008年ともに学芸出版社)、『エコライフ―ドイツと日本どう違う』(2003年化学同人)がある。また大阪に拠点を置くNPO「recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト)」の運営にも関わっているほか、日本の大学や自治体などで講演活動も行っている。

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