街づくりは「役に立たない」文系教育が必要だ ドイツエリートが哲学・歴史・芸術を学ぶ意味

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元気な都市をつくるために必要なのは、日本で重視される実学教育よりも、哲学や歴史といった「役に立たない」文系教育なのかもしれない。写真はあるギムナジウムで用いられているラテン語の教科書。単に言語を学ぶのみならず、ヨーロッパの源流について広く学ぶ(筆者撮影)

経済力があって、かつ生活の質の高い都市を主体的につくるために「ヒト」が大切だということは、大多数の人が認めるところであろう。

地方分権型のドイツには、小さな地方都市でも元気なところが割と多いが、こうした都市を支えるのは、積極的な市民参加をして自治を担うエリート市民層だ。なぜ市民による主体的な都市運営が可能なのだろうか。そこには、日本とは質の異なる、高学歴層への教育が関係している。

古典を学び、文化を重視する「教養市民」とは?

現在のドイツの都市運営の原型は、19世紀半ば以降につくられた。このとき活躍したのが、都市官僚たちだ。彼らは「教養市民」と呼ばれるドイツ独自のエリート層で、ギリシャ語やラテン語といった古典を学び、文化を重視する。こうした都市官僚たちは、理念や統合性を重んじ、都市の全体像を見ながら、長期的視点に立った都市運営を行った。

現代の都市運営の担い手も、この「教養市民」の系譜をひいている。彼らは「アビトゥア」という大学入学資格を取得している。アビトゥアの取得者は、統計的に見て政治に対する関心が高く、またNPOなどの活動に参加する人も多い。

彼らは、いったいどのような教育を受けてきたのだろうか。アビトゥアの取得を前提とした教育機関は、「ギムナジウム」と呼ばれる。日本の少女漫画にはこれを舞台としたものもあり、聞いたことがあるという人もいるだろう。小学校(4年生まで)卒業時に一定の成績を取得していればギムナジウムに進学可能で、あえていえば日本の中高一貫校のイメージが比較的近いだろう。

ギムナジウムの特徴は、学校ごとに、人文主義、音楽、経済、社会学など、重点を置くポイントが異なることだ。共通するのは、日本では近年「役に立たない」と軽んじられることがとかく多い、思想や歴史など文系の教養を広く学ぶことだ。

一例として、バイエルン州にある自然科学を重視するあるギムナジウムのカリキュラムを見てみよう。まず、語学ではラテン語を4~5年間にわたって学ぶ。ラテン語の習得は、欧州の知識階級にとっての教育の基礎といってもよい。そして、同時に古代ローマの歴史も学ぶ。ちなみに、ドイツの歴史教育では「ドイツ史」「世界史」という区分が明確になく、古代ローマから近現代のドイツまでを一連の流れの中で学ぶ。芸術の授業でも、高学年になると印象派などの表現技法や建築史について学ぶ。こうした授業を通じて、学生たちはヨーロッパ世界の思想と歴史の源流に触れることになる。

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