「ゆる鉄」中井精也が駅前に画廊を開いたワケ 東京・三ノ輪に開店、商店街も元気になった

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創業90年の漬物屋「藤野青果」は中井さんも尊敬するほど働き者のご夫婦だという。ここの奥さんも中井さんの写真を買った一人だ。

「自宅用のほかに、SLの煙がまるで犬みたいに見える写真があって、一目見て気に入ったので、それも買ってお友達にプレゼントしました。有名な方がお店をやってくれて、お客さんも歩いてくれるのでありがたいですよ」

藤野青果(筆者撮影)

中井さんがここでお店を開かなければ、おそらく額に入った写真なんて買うことのないだろう人たちが、写真を見て、選んで、買っている。中井さんがパリで見かけた風景が形になっている。

「開店してから最初にコラボするのは、コマーシャルなどでお仕事させていただいているカメラ関係の企業だろうと思っていました。でも、実際のコラボ第1号は、商店街のとんかつ屋さんでした。『1日1鉄!』というキーワードを言うと、1200円のとんかつ定食が1000円になるんです。当初の予想とは違ったけど、僕らしくていいかなと思いました」

「都電荒川線沿いはバラが有名で、ここ三ノ輪橋には鉄道を撮る人だけでなく花や風景を撮る人もよく訪れるので、立地もよかったと思います。お店はこれからもずっと常設で続けていくつもりです。ギャラリーでは期間を決めて、自分の作品を選び、テーマ展をしようと考えています。仕事柄、撮影旅行で不在のときも多いのですが、そのときはスタッフがお店を開けます。商店街の活性化にも、少しでも役立てばと思っています」

「ゆる鉄」というテーマに込めた思い

鉄道沿線に漂っている、ゆるい雰囲気や旅情を被写体にするという「ゆる鉄」。中井さんの人柄にもにじみ出ているこの作風は、いったいどうやって生まれたのだろうか。

「小学生の頃から中央線の201系が好きで、駅に写真を撮りに行っていました。中学生のとき、鉄道研究部に入りました。

中井さんが撮影したポラロイド写真(筆者撮影)

中高一貫の学校だったので、先輩は高校生。『テストだ。この駅名を読んでみろ』と言われて示されたのが『糸魚川(いといがわ)』。もちろん読めませんでしたが、自分の知らない駅、街が日本にはいっぱいあるんだ、と興味を持ち、どんな風景なんだろうと想像の中で旅をしていました」

「中学であだち充の『みゆき』を読んで彼女が欲しくなり、付き合った彼女に自分の撮った、電車が画面いっぱいに写った写真を見せたら、すると『中井くん、電車好きなんだ』というがっかりしたような反応。 なのに、お花の中を走る列車や田んぼの緑を一緒に撮った写真を見せると『可愛い』『行きたい』と言ってくれました。鉄道に興味のない人に、どうやったら自分のいいと思う鉄道の魅力を感じてもらえるのか、アマチュア時代から真剣に考えていました」

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