「高度プロフェッショナル制度」に隠された罠 年収400万円も狙う「残業代ゼロ法案」の含み

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法案では、高度プロフェッショナル制度導入の要件として、一定の健康確保措置が義務づけられており、これによって、労働者の健康を害する長時間労働や過労死が防止できると考える人もいるかもしれない。

しかし、ここで義務づけられている健康確保措置は、年間104日の休日確保措置に加えて、次の4つだ。

① インターバル措置
② 1月又は3月の在社時間等の上限措置
③ 2週間連続の休日確保措置
④ 臨時の健康診断

法案では、この4つの措置のうちいずれか1つを選択すればよいということになっている。多くの企業が、④の臨時の健康診断(対象労働者が一定の労働時間を超えて働いた場合に健康診断を義務づける措置)を選択することは目に見えている。健康診断については、やらないよりはましかもしれないが、長時間労働の歯止めになるほどの強力な措置にはならないだろう。

このように、高プロが導入され、それが発展すると、今まで労基法が定めていた厳格な労働時間規制は、少なからぬ労働者を対象に撤廃されかねない。労働者の健康を確保するための実効的な措置は制度上ほとんど保障されておらず、長時間労働の歯止めにはならない。

高度プロフェッショナル制度は労働法の根幹を揺るがす

この間の高プロをめぐる議論では、労働組合や労働弁護団などが反対の声明を挙げているが、その中でも、過労死によって家族を亡くした遺族の方々の発言が目立っている。

彼らが反対するのは、今回の法改正によって、長時間労働、働き過ぎによって命を落とす労働者をなくすことはできず、むしろ、過労死を助長するおそれがあることを、経験に基づいて痛切に感じているからだ。

安倍総理は、かつて、過労死遺族らと面談をし、過労死をなくす旨を明言し、その政策的実現としての「働き方改革」であったはずである。ところが、実際には、長時間労働の是正をうたいながらも、長時間労働是正とは正反対の長時間労働を助長しかねない制度を法案の中に含ませたうえでの一体法案として今回働き方改革関連法案が提出されている。

労働基準法をはじめとする労働者を保護する法律は、歴史的にみても、まずは労働時間をいかに規制するかという点に主眼が置かれてきたことは明らかである。

憲法27条2項は「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」と規定し、これを受けて労働基準法が制定されている。

そして、労働基準法1条は「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」と労働条件の大原則を高らかに宣言している。ここでいう「人たるに値する生活」は、憲法25条1項が保障している「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」と共鳴し合っている概念である。

「1日8時間、1週40時間」労働という労働時間規制の大原則は、このような憲法、労基法の基本理念から導き出される労働者保護立法の要というべきものである。今回導入されようとしている高プロは、一部とはいえ、労働法の大原則を無効化する制度であり、労働法のあり方を根本から覆しかねない重大な制度変更である。

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