「XC40」「X2」「UX」の登場が今年に重なった理由 小型SUVブームは降って湧いた話じゃない

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自動車メーカーは量産自動車のモデル投入計画を7~8年前から厳格に決めている。新型車を作るには生産能力のある工場を確保しなければならないし、車種ごとのコンセプト想定やデザイン、安全性を確保できるだけの設計・開発・認証や部材の調達などにはそれぞれ時間を要し、宣伝・広報の予算も急には捻出できない。それゆえメーカーは、売れそうだからといってもおいそれと新しい車形を増やすわけにはいかない。

BMW「X1」が風穴を開けた

この分野において、そこに本格的に風穴を開けたのは2009年登場のBMW「X1」だ。BMWが「X5」に始まるXモデルの投入により大幅に市場を拡大したのを受けて、X1はコンパクトハッチの1シリーズをベースにフルタイム4WDシステムを組み合わせて市場に投入された。縦置きエンジンゆえ室内はお世辞にも広いとはいえなかったが、その手頃な価格とコンパクトさ、BMWブランドというプレミアム性の組み合わせが受けて、初代X1は7年間で70万台以上を販売するヒット商品となった。

現在のプレミアム・コンパクトSUVブームの端緒を開いた初代BMW X1(写真:BMW)

X1はベースである1シリーズより明らかに高い価格にもかかわらずよく売れた。より上級のSUVと同様、一般的な乗用車を作るのと同じ労力(生産ラインや宣伝費用)で高い利益を回収できることを示したのだ。

多くの消費者は、自動車の価格というのは厳密な原価計算に基づいて相応の「利益率」で販売されるものと考えていると思うが、実際にはSUVという冠を与えることで潤沢な「利幅」を乗せて計算されている。もちろん、こうした利幅はライバル・ブランドの動向をにらみながら相応にコントロールされている。

こうした乗用車のSUV化も、大幅なコスト増を伴うものであれば割に合わない。一方で、近年起こったのは自動車プラットフォーム(車台)の設計変更に対する柔軟性の向上だ。

MQBプラットフォームの概念を示す。前車軸からフロントガラス前端までの長ささえ変えなければ、ホイールベースやオーバーハングは自由に変更してサイズ変更が可能だ(写真:フォルクスワーゲン)

フォルクスワーゲングループが「MQB」というプラットフォーム構想を明らかにし、BセグメントのポロからDセグメントのパサートまでほとんどフルラインナップをひとつの基礎構造でカバーすることを示したのは2012年のこと。それまで、自動車はサイズが変わるとボディやサスペンションや電装系の構造、それらの取り付け部分を再設計しなければならなかったものを、最初からさまざまなサイズや用途に対応し、安価に豊富なバリエーションを作れるようにした。

こうした動きに世界の各メーカーは追随し、プラットフォーム統合がコストを抑えてよいクルマを作るのには必須となっていった。SUVには大きなタイヤ、ホイールトラベル、ロードクリアランスが必要で、かつては大掛かりな取り組みが要求されたのだが、こうした流れのなかでどのメーカーも少ない負担で車種を増やせるようになった。

元来、背の高いクルマは激しい操舵の連続などにより転覆しやすいなど、操縦安定性の制御が難しいものだが、ブレーキやエンジンの電子制御を活用したスタビリティ・コントロールの発展によりその課題をクリアしやすくなった影響も大きい。ユーザーはSUVならではの見晴らしのよさや今風のデザイン、悪路走破性の高さを少ないデメリットで楽しめるようになった。

というわけで、それなりの生産規模があり、汎用性の高いプラットフォームを持っているメーカーが、同じようなタイミングでプレミアム・コンパクトSUVという畑に種をまき、それらが続々といま花開いているのだ。

真田 淳冬 コラムニスト

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さなだ きよふゆ / Kiyohuyu Sanada

メーカーはじめ自動車業界に長らく籍を置き、1950年代から現代に至る世界中のさまざまな乗用車をドライブした経験を持つ。歴史、経済、技術といった分野をまたぐ広い知見を買った東洋経済オンライン編集部が独自に著者として招いた。

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