ソニー、不振でもスマホから撤退しないワケ 中計から見えた「2020年代の成長戦略」
前社長の平井一夫氏がたどり着いた「感動」をもたらす製品・サービスを作ろうというスローガンは、「ラストワンインチ」という言葉に集約されている。これは、クラウドにアプリケーションの価値が集まる中にあって、最終的に手に触れるモノに価値が生まれるという考え方である。この考え方を徹底することにより、平井前社長はソニーのエレクトロニクス部門を復活させた。
吉田新社長の戦略はこの流れを引き継ぎ、さらに映像・音楽を楽しむ製品を起点にコンテンツ事業へと結びつけ、“事業のリカーリング化”を進めるという。
コンテンツ業界は、音楽についてはCD販売、ダウンロード販売から配信への移行が進み、落ち着いたことで事業性が以前よりも増している。その中で英EMIを買収する計画を発表した。昨年、平井氏は国内の経営指揮を吉田氏に任せ、頻繁に米ソニーピクチャーズに足を運んでいた。
映画会社も事業の形を変えようとしている
ネットフリックスなどが自主制作映画・ドラマを多数制作し、ネット配信で映像を楽しむことが多くなってきた中、ディズニーがHuluを運営する20世紀フォックスを買収したニュースに代表されるように映画会社も事業の形を変えようとしている。
こうした流れの中で、エレクトロニクス製品とコンテンツ事業を結びつけることで収益化を図るという話も、前期から引き継いでの既定路線だ。一方で1月に発表していた自動車向けセンサー事業の進展をはじめとする、新たな収益源と期待される事業に関しても、驚くような内容はなかった。
できるかどうかの判断をできないような計画を口にすることはできないのは当然と言えば当然である。が、それでもソニーに対する期待感が高まってきたこともあり、「しばらくは現状維持が続く」という部分に、株式市場が冷めた反応を示したということだろう。
もっとも、筆者はこうした既定路線維持の方針を前向きなものとして捉えた。6年(中計でいえば2期)続いた平井体制は、瀕死のエレクトロニクス事業を見直し、切り取る部分は切り取り、止血すべきところは止血し、社内の士気を高めるために若手をはじめとするエンジニアにチャンスを与えることで活性化してきた6年だった。
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