これを突き止めたのが、同社の研究員。この大発見から天井という発生源に対応する商品開発が始まったそうだ。しかし、天井のケアは難しい。たとえば、スプレーだと目に入る恐れがあるし、シート状のものを天井に張り付けるようなモノも作業負担は重い。そこで、2004年に中外製薬から買い取った「バルサン」のくん煙技術を活用することになったという。
開発中止の危機を乗り越え苦節5年
ところが、カビに効果のある除菌成分の中からくん煙に向く約20種類を試してみると、すべて安全性に問題があることが発覚。一時は開発中止の危機に陥ったという。しかし、同社は、すでに安全性と除菌力が広く認められている「銀イオン」に改めて着目したという。
くん煙とは、熱で成分をガス化させて飛ばす技術なので、当初気体にならない銀イオンは候補外だったが、「微粒子なら煙の力で飛ぶかもしれない」と発想を転換したのだ。
しかし、微粒子も大きすぎると飛ばないし、小さすぎると肺に入って危険。数えきれないほどの実験を重ね、除菌力と安全性を両立させるサイズにようやくたどり着いたという。発売にこぎつけたときには、開発のスタートから5年の歳月が過ぎていた。
こうした紆余曲折を経て2012年9月に発売した同商品。翌月にはカビ取り剤市場のシェア2割を獲得するなど出足から売れ行きは好調だったが、「もっと爆発的に売れると思っていました。甘かったですね」と、宮川さんは笑う。新カテゴリー商材の難しさを痛感したといい、特に「使用法、安全性、効果」が消費者にわからないという“足かせ”を解いていく必要性に直面したそう。
たとえば、2012年末の時点で認知度は4割に達したが、知っているのに買わない人が85%もいた。ヒアリングしてみると、煙で防カビをする意味がわからない人が大勢いたそうだ。そこで、翌年はカビの原因が天井にあり、煙で対処できることを伝えるCMを展開したところ、売り上げが伸び始めたという。
その後も、2カ月間効果があることや、定期使用でカビ掃除は不要であることなどを各メディアでPR。競合商品も出てきたが、消費者になじみのある銀イオン使用は同社だけであることを強調するなど、丁寧なコミュニケーションを心がけていったという。
「ロイヤルユーザーが増え、梅雨や年末などの需要期に限らず通年で売れるようになってきています」と、宮川さん。現在、定期的な使用定着を狙って発売した3個パック(1520円税込想定価格)の売り上げが伸びている。
市場に与えたインパクトも大きい。2007年に90億円あったカビ取り剤市場は、価格競争が激化して2011年まで縮小し続けたが、その後2012年に登場した同商品が市場を押し上げる形で伸び、2017年には再び90億円まで回復したという。それでも、まだ認知度は51%、使用経験者も2割とのことで、今後どこまで普及していくのか興味深い。
また、同商品のような日用品に限らず、さまざまな分野で技術革新が進む昨今、消費者も、新たな恩恵と上手に向き合う感性や取捨選択するスキルをいっそう問われる時代になっていくのではないだろうか。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら