ICOによる資金調達が地方の活路になるワケ 仮想通貨に対する不信を乗り越える

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もし地方自治体がICOをするならば、法定通貨建てである従来の地方債と同等の償還確実性を担保する必要がある。もちろん、地方自治体には徴税権があって強制的に収入を得る能力があるから、民間企業とかがICOをするのとはわけが違う。とはいえ、アメリカの地方自治体は、連邦破産法第9条に基づき破産(債務の削減や期限延長)が可能だから、ICOでの償還確実性の担保は、ブロックチェーン技術の活用とは別の課題として残される。

ひるがえってわが国をみれば、どうだろう。地方自治体のICOは、むしろ日本のほうがその利点を多く享受できるのではないか。日本の地方債は、債務不履行はない(地方自治体は法律上破産できない)ものの、流動性がかなり低い。日本にも地方債の流通市場はあるが、東京都債や横浜市債など銘柄が限られており、他の地方債で十分な規模の市場が形成されているとは言いがたい。同じ日本の都道府県の地方債なのに、看過できない金利差が流通市場で生じたりする。

おまけに、市場で地方債を公募発行しているのは、都道府県と政令指定都市だけで、そうでない市町村がおカネを借りるときは、基本的に相対で借りており、その貸し手は満期が来るまで貸しっぱなしで、その流動性は皆無だ。もし今後わが国で金利が上がれば、貸しっぱなしの地方債は逆ザヤとなって民間金融機関の損失を拡大させる懸念がある。なぜなら、金利が上がると、金融機関の資金調達コストが上がる一方、これまでの低金利期に地方自治体に低利で貸したものからの収益は少ないままだからである。相対で貸した地方債を他に転売できれば、逆ザヤを回避できるが、これでは事実上不可能だ。

トークンなどで流動性を克服する

こうした背景を踏まえ、債務不履行がなくICOにまつわる不信が起きにくい地方債の流動性の低さを克服すべく、わが国でも地方債でICOを活用するのはどうだろうか。ちなみに、北海道夕張市の事例は、国が貸し手となる地方債(夕張市債)で債務調整を行うことで対応したもので、夕張市が民間金融機関に債務不履行をしたわけではない。

もちろん、地方自治体単体で独自のICOを行うのではなく、同じトークンを使うなど地方債の流動性を克服する仕組みを備えたICOが望ましい。地方自治体のICOは、小規模でもできる。わが国に「ミニ公募債」という個人向け小口地方債があるが、それを仮想通貨を介して行うことも可能だ。さらに、ICOは、市場で地方債を発行している都道府県と政令指定都市だけでなく、市場公募債を発行したことのない市町村でも、技術さえあればできる。そうした市町村に相対で貸している民間金融機関にとっても、逆ザヤのリスクを避ける利点がある。

バークレー市のICOも、アメリカの規制当局の公認がなければできないから、ICOがうまくいくか予断を許さない。仮想通貨の価格変動リスクを発行体と投資家がどう分担するかなど、ICOならではの難点も克服する必要もある。とはいえ、仮想通貨をめぐる制度設計が今後どう展開するか、ますます目が離せない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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