「快感」とはいったい何か?米国で議論が沸騰 芸術がもたらす快楽はほかと異なるのか
最近、快感や快楽、喜びとは何かをめぐる議論が湧き起こっている。芸術がもたらす快楽は、キャンディを食べたりセックスをしたり薬物を摂取した場合の快楽と違いがあるのか、という問いについて、心理学者や神経病学者や神経科学者たちはいくつかの陣営に分かれ、ツイッターや科学誌を舞台に意見を戦わせている。
議論の発端となったのは昨年、ロンドン大学ウォーバーグ研究所の神経科学者のジュリア・クリステンセンが『英国王立協会紀要』に発表した論文だ。ダンスに対する人間の反応について研究しているクリステンセンは、現代人の多くがソーシャルメディアやポルノ、甘い物によってもたらされる「ドーパミンの放出と引き換えに自由意志を手放した、手の付けようのない快楽中毒者」になっていると主張した。
芸術はほかの快楽と違った形で人間に働く?
そしてクリステンセンは、一風変わった対処法を提案した。芸術はほかの快楽と違った形で人間に働くから、「異常なほどの衝動や強い欲求による有害な影響を上書きする助けとなる」はずだと主張した。
クリステンセンの主張は芸術や快楽について研究しているほかの研究者たちの反感を招き、4月には同紀要に反論が掲載された。芸術による脳への働きかけを特別視するクリステンセンのような考え方はずっと以前から存在するし、もういい加減そんな考え方には終止符を打つべきだというのが反論の内容だ。
バレアレス諸島大学の心理学者で建築や芸術作品の曲線に対する人間の反応を調べているマルコス・ナダルと、デンマーク磁気共鳴研究センターで意思決定について調べている神経科学者のマルティン・スコウはこう書いた。
「クリステンセンは先ごろ、芸術がもたらす快楽は食べ物やセックス、スポーツや薬物がもたらす快楽とは異なると主張した。だが彼女の主張は、芸術から得られる快楽は起源においても機能においても食べ物や薬物やセックスが誘発する快楽と何ら違いはないことを示す数多くの証拠と矛盾している」