日本が北朝鮮問題から外されてしまった理由 日本はもっと独創的にならなければならない

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日本は拉致問題を解決したいと願っているが、これはミサイル問題以上に成果をあげるのが難しい案件だ。日本政府がリストアップする拉致被害者が17人なのに対して、北朝鮮が認めている被害者の数は13人でしかない。拉致問題は日本のメディアが執拗に報じていることもあって、日本では国民感情的にも政治的にも重大問題のままだ。

しかし、日本にとっては残念なことだが、核をめぐる幅広い問題や人権問題が存在する中で、米国や他の関係国に拉致問題を優先的に扱ってもらえるよう交渉するのは難しい。日本が拉致問題にピンポイントで的を絞ってくるのも理解できなくはないが、いかにも視野狭窄——北朝鮮問題に関わっている米国の外交官と話をした感じでは、彼らの間にはこのような共通理解ができあがっているようだ。

日本にはどのような選択肢があるのか

北朝鮮問題をめぐる関係国の中で、もっとも脇へと押しやられているのが日本だ。こうした状況を踏まえれば、先日の日米首脳会談で安倍首相に向けられていた期待が非現実的かつ過剰なものであったことを理解するのは、難しくない。

米朝首脳会談で拉致問題を取り上げるというトランプ大統領の約束は、形だけの社交辞令に過ぎないが、それは最初から予想できたことだ。だが、安倍首相は批判的な報道にさらされている。その原因は、日本の役割についての期待を膨れあがらせてしまったこと、そして、支持率挽回のためには日本に結果を持ち帰る必要があるとのストーリーが広まってしまったことにある。

では、制約だらけの日本が、北朝鮮問題で影響力を維持、拡大するにはどうすればいいのか。

選択肢の一つは、トランプ大統領との個人的な関係を最優先するという従来の方針を貫くことだ。ただ、トランプ大統領が予測不能な人物であることはよく知られており、諸刃の戦略となるリスクも伴う。

もう一つの選択肢は、日米韓の三角関係のどちらか一方につくことだ。韓国と手を組むことが一つ目のパターンになる。北朝鮮への空爆を示唆する米国の好戦的な姿勢に、韓国では懸念の声があがっている。米韓の間には北朝鮮問題の優先事項をめぐって溝ができつつあるため、日本は韓国を助ける盟友の立場に身を置くことで、存在感を高めることができる。だが、これまでのところ日本がとってきた戦略は、明らかにこれとは違う。

三角関係の反対側に存在するのが、米国と手を組んで韓国に対抗するパターンだ。日本は米韓の間に生まれた不協和音に乗じることで、米国の北朝鮮政策において東アジアで唯一、信頼に足る同盟国であるとアピールすることができる。米韓の対立が深まるとの見方が支配的だった間は、日本はこうした戦略を貫き、最大限の圧力を維持すると連呼することで成果を上げることができていたように見える。

日本のこうした戦略は、平昌冬季五輪以降の融和ムードによって効果を失ったと結論づける向きもあろう。ただ、日本には一つ武器がある。ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)やマイク・ペンス副大統領はじめ米国の政策決定者の多くが、今も北朝鮮に対して強硬路線を維持していることだ。こうしたトランプ政権内の超タカ派陣営が、最大限の圧力に向けて失地回復を図りたいと考えたとき、最後の頼みの綱となるのが同じく強硬路線を貫く日本政府なのである。

日本にはやや長期的な選択肢もある。米朝の合意成立に賭け、その実施段階で主要な役割を担うことができるよう、今から手を打ち始めるのだ。そのためには知恵を絞って、北朝鮮政府に対してはニンジンとなり、米国にとっては政治的、経済的負担を軽くするような策を提案していく必要がある。

日本は米国にとって欠かすことのできない同盟国だ。世界で最も重要な同盟国といえるかもしれない。日本の経済力や国益は、北朝鮮の未来にとっても極めて重要な意味を持つ。

だが悲しいかな、先日の日米首脳会談でも明らかになったように、北朝鮮をめぐる外交ゲームで日本は存在感を発揮できずにいる。影響力を維持し、国益を世界に理解してもらうためには、日本はもっと独創的にならなければならない。あとは、2020年の米国大統領選で、もっと安定した政権が誕生するのを願うことだろう。

文:Mintaro Oba

筆者のミンタロウ・オバ氏は米国の元外交官。米国務省で韓国問題を担当した。現在はスピーチライターとして活動している。
「北朝鮮ニュース」 編集部

NK news(北朝鮮ニュース)」は、北朝鮮に焦点を当てた独立した民間ニュースサービス。このサービスは2010年4月に設立され、ワシントンDC、ソウル、ロンドンにスタッフがいる。日本での翻訳・配信は東洋経済オンラインが独占的に行っている(2018年4月〜)。

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