口座情報「同意なし」ビッグデータ活用の波紋 三井住友FGとヤフーの新たな合弁会社が検討

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1つは「匿名加工情報」として活用するやり方だ。これは、昨年5月に施行された改正個人情報保護法によって新たに可能になった。企業が得た個人情報のビッグデータをマーケティングに生かす手法は、昨今ではもはや当たり前だ。

改正法はこれをさらに一歩進めたもので、個人情報を匿名化すれば、企業は本人の同意なしに情報取得の目的外で活用したり、第三者に提供したり、あるいは外からもらったりすることもできるようになった。匿名加工情報を活用する場合は自社のウェブサイト等で公表する義務があるが、利用者が注意深く読まなければ気づきにくいうえ、拒否権はない。

もう1つは、あくまでも自社が主体として、業務委託の形で他社に個人情報を渡すやり方だ。この場合は、委託先は個人情報保護法でいう「第三者」に当たらず、法的には本人の同意は不要となる。ただ、業務委託の範囲に限定されるため、匿名加工情報と比べると、活用できる範囲は狭くなる。

たとえ匿名化されたとしても、自分の入出金記録などの口座情報が銀行外に出るのは、よい気分ではない(写真:Graphs / PIXTA)

今回の取材で、三井住友FGは「現時点では業務委託の枠で行うことを軸に検討している」(広報)として、初めて方向性を明かした。三井住友銀行のプライバシーポリシーには、「当行は、法で定める場合を除き、あらかじめご本人の同意を得ることなく、お客さまの個人情報を第三者に提供することはいたしません」と記されている。

業務委託の形ならば、ヤフーとの新会社は「第三者」には当たらないため、法的にもポリシー的にも問題はないことになる。ただ、最初の発表時に一部の利用者が不信感を募らせたように、同意を得ずに個人情報を銀行外に出して分析することについて、すんなりと理解を得られるかは別問題だ。

企業の個人情報活用に7割は「不快」

NTTデータ経営研究所が2016年8月に実施した個人情報に関する調査では、「企業が消費者のパーソナルデータを利用していることへの印象」について、7割強の人が「不快」と回答した。

個人情報を提供する見返りに金銭や商品、ポイントなど対価がもらえる場合、「趣味嗜好」「年齢」「家族構成」であれば、匿名化が条件という回答も含め、7~8割の人が情報提供を許容した。一方で、「年収・預金残高」「株・債券」「位置情報」の場合は、「どのような条件でも提供したくない」と拒否感を示す人が6割を占めた。個人情報の中身によっては、どんな形でも勝手に外に出されて分析されたくないと考えている人の多いことがうかがえる。

同研究所の前田幸枝マネージャーは、「企業側がデータをどう使うかなどを積極的に開示して利用者の理解を得ることは当然必要だが、利用者側も規約の文面などをよく読んだり、企業がどう個人情報を使うのかに注意したりして、納得できるサービスを選んでいく必要がある」と指摘する。

ビジネスでのビッグデータ活用はすでに欠かせないものになっているが、AI(人工知能)によって分析精度が高まれば、ますます加速するだろう。政府の個人情報保護委員会によると、改正個人情報保護法の施行から1年弱が経ち、匿名加工情報を活用する企業はすでに300以上あるという。業務委託のケースも今後活用の幅が広がりそうだが、気づかないうちに自分の個人情報が望まぬ形で使われてしまうことがあるかもしれない。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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