7兆円買収を強行する、武田ウェバーの焦燥 国内史上最大の買収に募る「不安」と「課題」

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もちろん、現在の不振はウェバー氏にだけ起因するものではない。現在、売上高で1000億円を超す医薬品3品のうちエンティビオ、多発性骨髄腫治療薬「ベルケイド」の2つが2008年のミレニアム社買収で手に入れた製品だ。武田國男・長谷川閑史と2代20年近くの治世下で武田の自社開発力は衰えてしまったといっていいだろう。

とはいえ、ウェバー氏は自身が主導してきた米国に研究開発の重心をシフトさせる研究開発体制の再編が、武田の開発力向上に十分な成果を上げたかに関して、説得力のある説明をしきれていない。

買収は本当に武田の成長に資するのか

対外的に買収意図の有無を正式表明する期限である4月25日より前の同月上旬に一部のアナリストだけを集めて買収に関する説明会を実施。会社側は「文書声明で公表した以上の内容は話していない」と釈明に追われたが、一部の機関投資家にだけ、非公開で有利な情報開示を行うことは、フェアディスクロージャーの精神からは疑念が持たれかねない行為だ。

ウェバー氏は年間10億円の報酬を受け取っている。武田の利益を大幅に上回るアステラスの畑中好彦前社長(現会長)は2億円台だ。少なくともこの4年間は、高額な報酬に見合った実績を上げているとはいえないだろう。

自らの経営手腕を示し、武田の成長を確固たるものにするために、たとえ財務リスクが大きくてもシャイアーの買収に飛びついた。そうした強い“焦燥”がウェバー氏になかったといえるのか。

この間に買収に名乗りを上げるメガファーマなどライバルが現れる可能性はまだ少ないながら残っている。否決される可能性は低いとはいえ、両社の株主総会での決議も待ち構えている。

巨額の買収が決まったとしても、それは「世界のメガファーマ入り」という見せかけの華やかさでなく、武田の成長を加速させるものなのか。社外取締役を含めて武田のすべての取締役には、ウェバー氏の手腕を含めた冷静な議論と説明責任こそが求められている。

大西 富士男 東洋経済 記者

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おおにし ふじお / Fujio Onishi

医薬品業界を担当。自動車メーカーを経て、1990年東洋経済新報社入社。『会社四季報』『週刊東洋経済』編集部、ゼネコン、自動車、保険、繊維、商社、石油エネルギーなどの業界担当を歴任。

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