7兆円買収を強行する、武田ウェバーの焦燥

国内史上最大の買収に募る「不安」と「課題」

武田の売上高は約1.7兆円、シャイアーは同1.6兆円。単純合算すれば世界トップ10入りをする。国内最大手の武田にとって、はるか遠くにあったメガファーマへの仲間入りという悲願達成となる。 

武田の狙いは、シャイアーが持つ研究開発品(新薬候補)の取り込みだ。今後数年は市場投入済みの潰瘍性大腸炎治療薬「エンティビオ」など有力新薬で何とか食いつなげても、後期開発品の棚はすかすかで、その先の成長の道筋が描けない。

たとえば新薬申請・承認・発売に直結する臨床試験(治験)3相にある開発品は現状武田には4つしかない。それに対しシャイアーには15ある。1相から3相までの合計数は武田の31に対し、シャイアーは32とわずかながら上回る。その前の段階である前臨床開発中の薬のタネもシャイアーは35ある。

シャイアーの強みは、競争相手が少なく比較的高い利益が見込める希少疾患治療薬で新薬候補品を多く抱えること。希少疾患は、患者数は少なくても、治療が困難で新薬に対する患者のニーズが強い。こうした強みを持つシャイアーは、パイプライン不足のメガファーマから何度も買収の提案を受けてきた。

2014年には米バイオ大手のアッヴィによる320億ポンドでの買収に一度は合意した(その後、米当局による税率の低いアイルランドへの本社移転が課税逃れに当たるとの批判を受けて合意を破棄)。今回も武田に対抗しアイルランドの製薬大手アラガンが買収に名乗りを上げたが、数時間後に株価急落を受けて撤回した経緯がある。

課題は財務悪化とスキーム

しかし課題は山積している。武田はこの10年で、累計3兆円近い大型買収を行い、有利子負債は1兆円を超えた。今回の大型買収では、資金調達面で相当な無理をすることになる。買収額約7兆円のうち44%強となる現金は約3兆円が必要。武田は三井住友銀行など主要取引行と各行1兆円規模の借り入れに関し水面下で調整中と目される。

現在の有利子負債は武田が1兆円、シャイアーが2兆円。これに3兆円が加わると、買収後の新会社の有利子負債は6兆円に膨らむ。償却前営業利益に対する有利子負債の倍率は、現状の約3倍から約7倍に拡大。さらに金利の安い円で借り入れ、ドルで支払うなど外貨負債が加われば、為替による収益変動リスクも高まる。S&Pやムーディーズなど格付け会社からは、今回の買収後の武田の長期格付け引き下げ検討の動きが出ている。

借り入れよりも大きいのは、買収対価としてシャイアー株主に交付する新株の問題だ。武田は4月23日時点の自社の株価4923円を基に、シャイアー株1株に対し武田株0.839株を新規に発行し、交換するとしている。つまり、武田の発行済み株式数はほぼ2倍になり、その半分をシャイアーの株主が保有することになる。

こうした株式希薄化への懸念や巨額買収に伴う将来の不透明さを主因に、買収報道後の武田の株価は下がる一方だ。4月25日はさらに7%も下落し終値は4510円となっている。買収が決まり、新株発行のタイミングが来るまでに株価が下がれば下がるほど、武田が発行する新株の数は増え、希薄化が進むスキームになっているのが、既存株主にとっては注意すべき点になるだろう。

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