日本人の「ノーベル賞」受賞者が激減する日 池上彰が危ぶむ「役に立つ」思想への傾注
世紀の大発見と言われた京都大学の山中伸弥教授の「iPS細胞」。その研究で平成24(2012)年、医学生理学賞を受賞しました。現在は、さらに研究が進み、他人のiPS細胞を使った、目の網膜移植手術が行われています。そして近い将来、脊髄損傷や、パーキンソン病の治療にも役立てられようとしています。実現には時間がかかるかもしれませんが、iPS細胞で、臓器そのものを作ることが究極の目標とされています。
では、そんな多くの快挙の裏に、どんな“平成の宿題”があるのか? 池上彰さんは「研究者の危機をどう救うのか?」ということを最も危惧しています。日本は、アジア1位のノーベル受賞者を誇りながら、10年後には、その数が激減するのではないかと、言われています。その背景には、科学をとりまく社会の状況が変わり“役に立つ”研究にばかり、スポットがあたるようになってしまったことと関係しています。
本当に役立つことはすぐにはわからない
平成28(2016)年にノーベル医学生理学賞を受賞した東工大・大隅良典栄誉教授は「“役に立つ”ということは、とても社会をダメにしている。“役に立つ”=数年後に企業化できることと同義語みたいに使われる。本当に役立つこととは、10年後、20年後、100年後にならないとわからない。将来を見据えて、科学を1つの文化としてとらえてほしい」と訴えました。
実は、大隅氏自身も、役に立つ研究をしたから、ノーベル賞を受賞したわけではないのです。
細胞生物学者である大隅氏が受賞したのは、“オートファジー”という研究。オートファジーとは、細胞が、不要となったタンパク質を分解する、いわば、細胞の掃除などを行う仕組みのことです。この仕組みを解明したことによって、その後、がん細胞の増殖を抑制したり、病原体の排除とのかかわりが、次々と明らかになったり、将来、治療に役立つと期待されているのです。とはいえ、大隅教授が、この研究を始めたのは、がん治療が目的ではありませんでした。
研究を始めてから、受賞するまでの期間は28年。そもそも、研究を始めたきっかけは、人がやらない研究をしようという好奇心からだったそうです。
がん治療のためではなく、基本的な細胞の機能を研究することが自分の使命だとして、基礎研究を続けてきたからこそ、後に、病気の治療に役立つことがわかってきたそうです。
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