当時、裕也さんは東京支社に赴任していた。由紀さんは恋愛感情を持つことができないまま、裕也さんと連絡を取りつつ、結婚の準備を仕事のように進めた。
「でも、結婚式の日取りを決めるあたりでもめてしまいました。彼は私と2人でいるときには私を大事にしてくれるのですが、自分の家族が入ってくるとつねに家族優先。妹が運動部のコーチをしているから、という理由で土曜日はNGだと言われました」
日取りだけではない。披露宴で出すビールの銘柄から披露宴終了の時刻まで、裕也さんは自分の家族と親戚の都合を押し通そうとした。それに対して由紀さんの弟が腹を立て、裕也さんに抗議。コミュニケーション下手な裕也さんはむっつりと押し黙った後に「結婚はやめにしよう」と言い放った。裕也さんへの気持ちが冷めつつあった由紀さんも同意。結婚は直前に破談となった。38歳のときだ。
「仕事をしながら10カ月もかけて結婚の準備を進めていたので疲れてしまい、もう結婚は無理かもと思いました。でも、恋愛はしたい。ずっと前に登録してアカウントが残っているマッチ・ドットコム(老舗の婚活サイト)にアクセスしてみました」
出会ったその日に、彼のマンションへ
すると、意外な男性からメールが来た。10歳年下の弘文さん(仮名)だ。絵文字を多用したメールに、年上好きの由紀さんは何の期待も抱かなかったが、「こんなに年上の女性をデートに誘う男性はどんな人なのか」という好奇心で会うことにした。
「会ってみると、あまりにも若い雰囲気なので一緒にいること自体が恥ずかしいと思いました。でも、劇団四季の演劇を観た後で食事に誘われ、夜10時過ぎても『もう少し一緒にいたい』と露骨に口説かれたんです。お酒が入っていたこともあり、誘われるまま彼のマンションで翌朝まで過ごしてしまいました。初対面だったのですが……」
由紀さんにとっては、若すぎるけれど積極的な弘文さんは「キスをすることが想像できる」男性なのだろう。破談の苦い思い出を払拭するためにも、一夜限りの気分転換をしたくなったのかもしれない。
翌朝、冷静さを取り戻した由紀さんは弘文さんに通告した。1日過ごして楽しかった。でも、私はあなたの遊び相手にはなれない。そういう人を求めているならば他の人を当たってほしい、と。弘文さんは慌てて「遊びじゃない。付き合ってほしい」と告白。
38歳の由紀さんは攻撃の手を緩めなかった。次のように追い打ちをかけたのだ。
「私はあなたよりも10歳も年が上。あなたよりも10年分時間がない。付き合って半年したら、結婚に向かって進める相手かどうかを判断してほしい。そのときに迷うようならば私とは縁がなかった、ということだよ」
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