高齢者の医療費は原則「3割」に引き上げよ 現役世代の負担を軽くすることこそが重要

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その効果を説明しよう。

75歳以上の高齢者は、現在の仕組みでは、窓口負担が原則1割で、残りの9割が皆で払った税金と保険料で賄われている。この窓口負担を1割から2割に変えられれば、税金と保険料で負うべき財源は9割から8割に減少。約11%減る計算だ。もちろん、75歳以上の高齢者が費やす医療費が医療費のすべてではないので、税金と保険料の負担が全体として約11%減るわけではないが、税金で負うべき負担と保険料で負うべき負担が相当程度減る。それだけ勤労世代に課される保険料が上がらずに済む。また税金で捻出しなければならない給付財源も節約できる。

こうした窓口負担の不公平がなぜ起こるかと言えば、現状の仕組みでは、窓口負担が所得の多寡ではなく、年齢によって決められているからだ。今後目指すべき方向性としては、医療の窓口負担は、「年齢」によって違いをつけるのではなく、「負担能力」、つまり「所得」に応じて違いをつける形に改めるのがよい。勤労世代であれ、高齢世代であれ、原則3割負担とし、低所得者には例外的に2割負担や1割負担とする。

今の高齢者で一定の所得を得ている人には、勤労世代と同じ3割の窓口負担をお願いすることによって、今の勤労世代が働いている間の保険料や税金の負担がそれだけ軽くなるのは、大きな利点だ。

政治家は世代間格差の是正に手を打て

ただ、今の勤労世代が75歳以上になったときに、医療の窓口負担の割合が原則3割負担になれば、老後に医療の自己負担が重くのしかかって厳しくなるのではないか、と思われるかもしれない。

これに対し、現在のわが国の医療の仕組みには、一時的に重い医療費の負担にさいなまれないようにする仕組みがある。それは高額療養費制度だ。一時的に重い医療費の負担に直面した人には、一定金額以上には自己負担を強いられない、つまり医療費の窓口負担に事実上の上限が設けられている。だから、高齢者になって原則3割負担になっても、底なしに自己負担を求められることはない。働いているときの税金や保険料の負担が軽減される利点のほうが大きく、老後の不安はささいなものである。

先に触れたように、2025年前後に高齢者の医療費の支え手の人口が急減し、支えられる高齢者の人口が急増するという局面になることがわかっていて、何も変えずに若い世代に負担を増やし続けてよいのか。低所得の高齢者にまで医療費の窓口負担を増やす必要はない。が、若い世代と同程度に所得を得ている高齢者には、同程度の負担率にしないと、税金や保険料で若い世代に過重な負担を課してしまう。

この時期に医療費の窓口負担の議論をするのは、今夏の骨太方針が背景にある。高齢者の窓口負担割合を上げて、税金で捻出しなければならない給付財源を節約できれば、財政収支が改善する。特に、基礎的財政収支黒字化という財政健全化目標を達成する時期を、今夏の骨太方針で示すことになっており、財政収支の改善に少しでも貢献できるなら、そうした方策を積極的に採用して収支改善につなげられるとよい。

そんな機会でもないと、医療費の窓口負担をまじめに議論することは、他になかなかない。高齢者の得票を気にする政治家も、気が引けて、これまで正面からこの議論が仕掛けられなかった。世代間格差を是正し、年齢でなく能力に応じた負担を徹底するために、75歳以上の高齢者が急増する前の今こそ、手を打つべきだ。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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