テレビ・新聞が慌てた「放送法4条騒動」の不毛

映像コンテンツ振興策を考えるべきなのに…

どうやらこれで放送法4条撤廃を巡る議論は収束しそうだ。疑問に残るのが、なぜ放送法4条撤廃議論が突然出てきたのか、である。改革会議の議事録を見ている限り、3月15日以前まで、そのような議論は見受けられない。この問題に関する限り、ほぼすべて報道ベースなのだ。朝日新聞が入手した「放送事業の大胆な見直しに向けた改革方針」という文書はネット上には公開されていない。

この突然の4条撤廃議論によって、未来の映像メディア制度を考えるはずの規制改革推進会議の議論が政治的な色合いが濃くなってしまったのは残念だったとしか言いようがない。

21世紀のメディアビジョン

さて、「ネットもテレビも同じ」という感覚をもとに、これからの映像メディアをどう考えるか。日本の映像コンテンツの競争力をどのように高めるのか。規制改革推進会議には、未来に向けて前向きな提言をぜひ答申してほしいものだ。

日本の映像コンテンツは、規制市場である放送局の超過利潤で制作されてきた。規制されている分、字幕や災害放送など公共の役割も担っている。民放連の井上弘会長(TBSテレビ名誉会長)は、3月15日の記者会見でこう述べている。「民間放送が普通のコンテンツ制作会社となってしまったら、字幕放送や手話放送、災害放送や、有事の際の放送は、できなくなるのではないかと思う」。もしかしたら、放送はこれからもより放送らしくこうした有事の情報伝達に重きを置いていけばいいのかもしれない。

外資系のプラットフォームは、放送市場の外側に新たな市場を形成した。であれば、既存の放送制度はそのままで、新たなプレーヤーを育成すればどうか。政府がすべきは、そのための国産プラットフォームの構築とコンテンツプロバイダーへの利益配分プランといった政策だろう。

ネットフリックスは、ハリウッドスタジオでもテレビ局のような既存の映像コンテンツ市場のプレーヤーでもない。ところが、インターネットビジネスの勝者総取りの法則のとおり、会員を増やし、その利益で大量のオリジナルコンテンツを制作している。危機感を抱いたディズニーはネットフリックスからコンテンツを引き揚げ、傘下のスポーツ専門局ESPNを軸にしたネット配信プラットフォームを開始するとみられている。

中国の3大動画サイトの1つ「iQiyi」は、この3月にNASDAQに上場、22.5億ドル(2.2兆円)を集めるなど大人気だ。気づいたら、米中の巨大プラットフォームに世界が席巻され、日本のコンテンツの出る幕がなくなっているかもしれないのだ。

放送法4条が体現する放送やメディアが担うジャーナリズムの役割、表現の自由などとこうしたビジネスは分けて考える必要がある。ともかく、規制改革会議には、放送制度の規制改革という視点より1つ広い映像メディア産業の競争力向上というテーマでの答申を期待したいと思う。

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